高層ビルの窓を手で開け閉めする── そのことで得られる豊かな環境があります。自然換気を手動で行うことで、ワーカーが自分にあった環境をきめ細かく整えることができるのです。上着を脱ぎ着するように、自由に調整できるしつらえは、活動のパフォーマンスを上げ、環境を最適化し、ワーカーの環境への意識を高めることにつながります。人が手をかけながら建築を使いこなす。それを高層オフィスビルで実現しました。
高層ビルの手動自然換気
JAPAN SPORT OLYMPIC SQUAREは地上14階建ての複合ビル。定常的に北北西の卓越風が吹く環境にあるため、自然換気が可能なシステムを構築しました。窓を手で開け閉めする、手動の自然換気です。省エネ環境性能を向上させる上で、自然換気のシステムは欠かせません。
南北に長いこのビルは東面、西面に大きな開口部があります。そこで、外気を西面から導入して、東面へ排気する、シンプルな自然換気が可能になります。階段室などを利用した自然換気、つまり軽い暖気を上方から抜く重力換気のように、複雑な断面計画を施す必要はありません。また一般的に自然換気はセンサーを使った機械式の自動制御が主流ですが、ここでは手動としたところに意味があります。いま働く環境は、ワーカーが自分に合わせて自分でフィットさせられることが求められつつあります。手動換気はそのしつらえのひとつなのです。また、感染症抑制のための換気が求められる昨今、一気に大量の換気が可能になるのも手動換気のメリットのひとつです。
落下防止のための床が張られている。
またルーバーがあることで風速が1/3程度に抑制される。
自然換気有効性の確認
北北西の卓越風と、その逆からの南風の両方で、果たしてどれほど自然換気の効果が生まれるか、環境解析を行いました。風速2.5m/sですでに設備換気量の17倍の自然換気量が発生することがわかり、効果が裏付けられました。また自然換気は外気のコンディションの良い時に限られます。真冬真夏を除くほぼ中間期の利用になりますが、条件によっては外気の影響で室内に結露が生じる場合があります。そこで窓を開けていい外気温の条件を解析して、空調と自然換気をどう使い分けるのか、運用のモードを3つに設定しました。まず外気温が15~20℃では結露がないので、風速1.0m/s以上のときは自然換気のみ、それより風が弱いときは自然換気+空調で補います。外気温が上記以外は窓を閉めて空調のみ。この適切な外気の温度と湿度をセンサーで測り、自然換気に適した条件を満たしたときに、室内に掲示しているインジケーターが点灯。その表示を参考にしながら、ワーカー自らが判断して、窓を開け閉めするシステムを構築しました。
上階は強風も多いのですが、大きなタテ型遮光ルーバーを設置しているため、それが風よけになり、窓をつかった換気により適した風速を得ることができます。また、各階に設けられたルーバーを設置するための張り出しは、窓を開放したときの落下物防止にも役立っています。
自然換気と空調を併用するモード2では、外気温が15~25℃、 露点温度が16℃までであれば寒すぎず結露もしないため、
最適な条件下では窓を開けた状態でも 空調負荷を軽減することができる。
西面から入る空気の一部が渦を巻き、東面から出て行く風の流れがわかる。
両者に大きな差がない換気に最適なタイミングでインジケーターが点灯する。
JAPAN SPORT OLYMPIC SQUAREのプロジェクト紹介は当社HPをご覧ください。
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Update : 2019.01.17