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2013.10.01
難題「無柱の劇場空間に
超高層タワーを載せる」に挑む
構造設計 無柱空間の上に超高層タワーを載せる難題に挑む
構造設計部 石橋 洋二
工事監理 過去に前例のない精度を実現したメガトラス
工務部 仲條 有二
ハードルの高い難題が山積していた今回のプロジェクトの中で、最難関とも言えるテーマに挑んだのが構造担当。
無柱の劇場空間の上に超高層タワーを載せるという難問に、彼らはどんな答えを見出したのか。
また、東日本大震災後の構法変更など、逆境に立ち向かう中で工事監理担当が痛感したのは、三菱地所設計が誇る「結束力」だった。
無柱空間の上に超高層タワーを載せる難題に挑む
構造設計担当 構造設計部 石橋 洋二
「劇場とその直上に配置される超高層タワーとの合築という特殊な建築物を、高い耐震性能を持たせてつくること」。これが今回のプロジェクトで我々に課された大命題でした。下は劇場なので、当然ここに柱があってはいけない。劇場自体をまたぐ形で、幅が約40mの 無柱空間を確保し、その上に超高層タワーを載せるため、鉄骨造メガトラスを採用した「メガストラクチャー」方式にしています。トラスとは、鉄骨などの建築部材を三角形に組み合わせた構造形式のこと。部材に対して真っ直ぐな軸力で力に抵抗する、効率の良い形式であり、 鉄塔や鉄橋などに多く使われています。歌舞伎座は1階から4階までが劇場部分の吹き抜けで、その無柱空間の上に建つ超高層タワーを巨大な鉄橋が支えているとイメージしてもらえばいいでしょう。高層ビルに使用するメガトラスとしては日本最大級であり、その施工方法も考慮した設計を行うなど、まったく前例のない困難なケースに挑戦したのですが、大変な重圧を感じつつもやりがいは大きかったです。
超高層タワーから下層の無柱空間への構造的な切り替え階をつくりメガトラスを配置しましたが、ここではオフィスと劇場の機能的な切り替えも行われ、また、オフィスと劇場の両方から利用する設備機械室としても利用しており、構造と機能が融合した形になっています。 ここに落ち着くまでは、各職能との紆余曲折がありました。
和風建築の再現と鉄骨造の融合という繊細なテーマ
劇場部分では、鉄筋コンクリートで造られた第四期の伝統的な意匠を鉄骨造で継承する上で大きな壁が立ちはだかりました。先代歌舞伎座を踏襲したさまざまな外装 に構造上必要となる鉄骨を入れていく作業は、その狭い寸法に鉄骨をどう納めるのかという点で、非常に苦心しました。小屋組鉄骨の原寸検査は特に印象深いです。2011年の冬、福井県の作業場に意匠、監理をはじめ、構造設計、棟梁、瓦職人までが一堂に会しました。CADを使いこなせる棟梁の下、床いっぱいに原寸大の断面図を広げて丁寧に納まりや工事手順を検証しながら、鉄骨を書き込みました。作業場は暖房設備もほとんどなく、とても寒かったことを覚えています。メガストラクチャーのダイナミックさとは別に、和風建築の再現と鉄骨造の融合という、繊細なテーマにも同時に取り組んだ点も大きなチャレンジでした。
今回のプロジェクトでは、大胆さに加えて細心の注意を要するという両極端の要求を満たす設計が求められました。工場で初めて巨大なトラスの部材を見たときや、現場で組み立てに立ち会ったとき、また施工時の変形に対応するために採用したジャッキアップという特殊な作業に立ち会ったときなど、数多くの場面でそのスケール感に圧倒されました。また、歌舞伎座の伝統的な外観が鉄骨で徐々に再現されていくプロセスを間近に見て、あの厳冬の福井での原寸検査の光景を思い出し、何とも言えない達成感がありましたね。
原寸大の断面図に納まりや工事手順を検証しながら
鉄骨を書き込む。
過去に前例のない精度を実現したメガトラス
工事監理担当 工務部 仲條 有二
工事監理業務を行う立場からこのプロジェクトを振り返ったとき、前例のないものが多く、先を読むのが極めて難しかったことがあげられます。巨大なメガトラスの監理もその一つです。施工時に徐々に進むメガトラスのたわみに応じて、上部の柱をジャッキアップするという特殊な施工方法の採用が、構造設計の与条件として決定されていました。高い精度を確保するために施工ステップごとにジャッキアップを行う必要があり、前例もなくどのように施工品質を確保していくのか思案しました。 結果的に、これほど精度の高いジャッキアップを実現して効果を上げたケースは希有です。他社が挑んだ過去のプロジェクトには失敗した事例もあったと聞きますが、今プロジェクトでは最初の計画を綿密に立てたことが成功の要因で、スムーズに進められたと思います。
先代歌舞伎座の外装や内部空間をほぼ踏襲するという目的のため、難しい局面が多々あり、まさに稀代のプロジェクトと言えるでしょう。着工して半年ほど経過し、本格的な検討を始めた矢先に東日本大震災が発生し、各地では劇場の天井や壁の被害が報告されました。この事実を受けて、歌舞伎座も全面的な見直しが必要となり、意匠は図面通りとしながらもより安全性を確実に構築する方法を考えました。震災直後のタイミングで法的な基準も手法も確立されていないなかで、設計者と検討を繰り返し、ギリギリまで試行錯誤の末に、劇場の竿縁天井(R形状の大天井)を吊天井から直接鉄骨に取り付ける「剛天井」とする下地に変更。また、劇場の業平壁(菱形模様の上手下手の大壁)を24×15mに及ぶ鉄骨下地の一枚壁へ変更とすることに決定しました。現場施工段階での大きな変更なので、当然、現場にも負担を強いることになります。しかし、当社の意匠と監理、構造の部門が結束してその必要性を説明し、事業主と施工者に納得してもらうことができ、結果的に耐震性を向上させることができました。この時は、当社ならではのチームワーク力を実感できましたね。
「過去1200年で前例がない」耐風性に挑んだ屋根瓦
屋根の瓦葺きについても難しい作業でした。歌舞伎座の屋根は10万枚もの本瓦と3mを超す鬼瓦で構成されます。通常は瓦屋根のすぐ後ろに超高層ビルが建つことなどありません。吹き降りてくる強風にさらされる場所で、瓦には相当な耐風性が求められるため、我々は耐風計算をして最適な「この通りにしてほしい」という仕様をまとめました。いざ実施工になると瓦職人にとっては通常よりも手間がかかる作業となり、極めて異例な方法になってしまいました。「1200年の歴史でやったことがない」と反発もありました。歌舞伎座の屋根は通常の庫裏8棟分のボリュームがあるので、確かに彼らが抵抗するのも分かる。瓦1枚のビス止めが1回増えれば、10万回作業が増えるわけですから。それでも、恐らく歴史上初めての状況で瓦を葺くことになるので、その必要性を懸命に説明して最後には納得してもらえました。
今回のプロジェクトでは、高いハードルがいくつもあり、歌舞伎座の現場は監理者だけでなく設計者も本当に逆境の連続であったと思います。特に震災後に工期が2年しかなかったことから、施工者も設計変更には難色を示しました。彼らの立場では無理もないと思いますが、どうしても必要な変更。そんなとき、現場で働くスタッフたちがプロとして我々の話を真摯に聞いてくれたことがとても心強かったです。難問に挑むため、当社のスタッフが一致団結して逆境に立ち向かっていったことで、最終的に素晴らしい結果を出せた。三菱地所設計の結束力を誇りに思います。
本特集は2013年に取りまとめたものです。各担当者の肩書きなどは、その当時のものです。
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Update : 2013.10.01