超高層ビルの揺れによって生まれる力を、装置が吸収して建物を守るのが制振技術。一般的にはその装置を各階に分散して設置します。しかし今回は、ビル内に堅い芯棒のような架構を組み入れることで、最下部に制振装置を集中配置する技術を開発しました。芯棒はエレベーターシャフトなどに割り当てる、高層ビルのコアを想定。装置の数を1/3~1/4に削減でき、その装置が働く効率を5倍に向上させる制振システムです。
芯棒制振という考え方
揺れのエネルギーを減衰させるダンパーや積層ゴムなどの制振装置をどこに配置すると効率が良いか?この課題を検討した結果、芯棒架構という新たな制振システム技術を開発しました。制振装置は、地震による建物部材の揺れ、変位が大きくなるところに設置すると効果的です。
そこで、建物下部の中心に、周囲から独立した堅い架構「芯棒」を挿入してみました。芯棒は堅いのでそれ自体の変形は少なく、周辺部分との変位の差は最下部に集中します。各階で生じる相対変位が最下部に伝達されるというわけです。その周囲との変位が一番大きなところに制振装置を配置すると、効率が上がるのです。
高効率芯棒制振システムの解析モデル
構造モデルを一つ挙げてみましょう。地上30階鉄骨造、地下3階鉄骨鉄筋コンクリート造のビルを想定します。低層部、地下3階から地上5階までに、芯棒にあたる剛性の高いコンクリート系の架構を挿入します。この芯棒は周囲の構造と切り離しクリアランスをとって動けるようにしています。同時に底面には支承材として積層ゴムを取り付け、基礎とも縁が切れています。したがってビルが揺れるとき、この芯棒と周囲の鉄骨造の揺れ幅に差ができます。そこに粘性系オイルダンパーを設置するのです。ダンパーは制振装置として働き、揺れ幅の差による揺れを減衰してゆきます。このモデルを、制振装置を基準階に分散配置する一般モデルと比較するとき、粘性系ダンパーの必要台数は1/5。つまり装置が5倍有効に働いているという結果が出ました。
芯棒と周囲の間には隙間が設けられていますが、芯棒エリアをビルのコアとして利用することで、プランニングにも無理は生じません。たとえば中高層用エレベーターシャフトとして使えば、低層部でフロアを接続する必要はありません。5階以下を商業や設備に利用する近年の超高層ビルの用途にも合っています。
一方でこの低層部の堅い芯棒は、中高層部の柔軟な鉄骨造といかに接続するかが大きな課題でした。接続部に応力が集中してしまうのです。そこで芯棒の上部中層部に、堅い鋼材系ダンパーを設置しました。最も堅い芯棒の上に鉄骨造の堅い芯が連続して伸びているイメージです。このフロアではダンパー部分にクリアランスは不要で、連続したプランニングが可能。中高層部の地震時の力を適切に芯棒に伝える役割を果たします。
- 芯棒の高さは建物の高さの1/6以上1/2以下、最低でも30m程度が望ましい。
高効率芯棒制振システム
[特許登録] 登録番号——特許第 64908621号 ※詳細はプレスリリース参照
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Update : 2019.01.17