必要な場所に、必要なだけの明るさを
よい読書体験に欠かせないのが、よい光の存在です。
「ZEB Ready」取得を目標に掲げた図書館「MUFG PARKライブラリー」では、消費エネルギーの削減を図る一方、「森の中の本棚」というコンセプトを実現すべく、建築デザインと調和した、穏やかな光環境を実現することがテーマとなりました。今回は、この省エネ性と明るさ感を確保する方法の模索をご紹介します。
本ライブラリーはフルハイト窓やハイサイド窓からの自然採光が確保できる建築デザインです。そのため、照明で確保する平均照度を最低限とすることを前提に、タスク&アンビエント方式の考えを取り入れ、(天井面からの照度を最低限としつつ)読書をする場所に対してはスタンド照明やデスク照明で必要な手元の明るさを確保しています。
建物を特徴づける壁一面の壁面本棚には間接照明を組み込み、本の背表紙を照らす演出照明として機能させています。これは、本棚全体を照らし上げることにより空間の明るさ感を演出しつつ、本を手に取って選ぶ際に、手元の明るさを与える効果もあります。
必要な場所に、必要なだけ明るさを。これらの手法を用いて省エネ性と明るさ感の両立を図りました。
印象的な空間づくりへの電気設備からのアプローチ
照明器具の選定やその組み込みでは、意匠設計との協調を図り、照明器具の機能は生かしつつも器具自体の存在感を抑えた空間デザインにこだわっています。
天井面はシンプルなデザインと調和させるために、ダウンライトのみを設けました。ダウンライトは、空間の中で目立たないグレアレスの器具を採用するとともに、天井内に設置される電源ユニット用点検口のために天井の一部を取り外せる機構をつくることで、シンプルな天井とメンテナンス性を調和したデザインとしています。点検口自体の数も減らせるよう、天井裏にはダウンライト以外の配線は通さず、コンセントや壁面本棚などへの配線は床下に通しています。
天井にほとんど照明を設置しない代わりに、空間としての「暗さ」を感じさせないため、スタンド照明や本棚照明にもさまざまな工夫を施しています。壁面本棚の照明の設置方法や配線ルートは設計時点から検討を重ね、照明の機能を十分に生かしつつ器具自体を見せずに、本棚のデザインに上手く組み込んでいます。
器具自体の存在を感じさせずに明るさ感を演出することで、建築計画と調和した照明計画を実現しました。
照明計画から消費電力を激減、建物全体の省エネへ
今回、世界的なカーボンニュートラルの動きの中で環境への取り組みを一層高めていくべく、「ZEB Ready」の取得を与件としました。
延床面積500㎡規模の計画では、照明の消費エネルギーが全体のBEI値に与える影響は大きく、照明エネルギーの低減を「ZEB Ready」達成の中心的な手段としました。
前述のタスク&アンビエント方式の導入に加え、本棚照明は適切な配置で上下配光とすることで明るさ感に配慮。消費電力の低減に加え、明るさセンサーやタイマー制御を導入することで省エネ性に配慮した照明制御を行っています。その結果、照明のBEI/Lは0.13と、建物全体のエネルギー消費量低減に大きく貢献し、「ZEB Ready」を取得することができました。
- BEI(Building Energy Index)とは、エネルギー消費性能計算プログラムに基づく、基準建築物と比較した時の設計建築物の一次エネルギー消費量の比率のこと。再生可能エネルギーを除き、BEI≦0.50の場合にZEB Readyを達成したと判定されます。
Designer's Voice
設計者
電気設備設計部 / 2021年入社
原 由弥
Yuya Hara
細かい部分までデザインにこだわりつつも環境認証を取得できる方法を探し、設計・監理まで担当して竣工を迎えることができました。電気設備設計者としてこだわったポイントも多く、非常にやりがいがあったプロジェクトです。照明の見せ方や省エネに対する手法をひとつひとつ検討したことで、設計者としての「アイデアの引き出し」を増やす、いい経験になったと思います。
※所属はプロジェクト担当時点
Data
物件名 | |
---|---|
所在地 | 東京都西東京市柳沢四丁目4-40 |
敷地面積 | 約11,040.55㎡(ライブラリー) |
延床面積 | 約436.10㎡(ライブラリー) |
規模 | 地上1階 |
高さ | 約5.22m |
竣工 | 2023年6月 |
主要用途 | 図書館 |
設計・監理 | 三菱地所設計 |
施工 | 東急建設 |
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Update : 2022.11.10