Q : 新型コロナ禍を含めて、ここ数年でビジネスの世界では、どのような変化がありましたか?また、現在注目すべきビジネストレンドは何でしょうか?
A : 皆さんも痛切に感じていると思いますが、2019年末から2023年までのコロナショックによって、既存ビジネスのあり方が根本から問い直されたと言えます。大きく変わった点は3つあります。まず、最大の変化は、グローバルサプライチェーンの再編が進んだことでしょう。中国の不動産バブルの崩壊やウクライナ危機によって、それはさらに鮮明となりました。サプライチェーン分断とリショアリングによる囲い込みの動きが顕在化しています。
2つ目に、ビジネスのオンライン化が広く浸透しました。今日もZoomを利用して聴講されている方がいますが、Zoom の1日の会議参加者数は、2019年12月のピークが1,000万人だったのに対して、2020年4月には平均3億人になり、3ヶ月で30倍に増加しました。他にもMicrosoft TeamsやWebexなど、Web会議システムの活用が当たり前になりました。この事例から、企業固有のインテリジェンス(知的財産)の有無が、他社との差別化をさらに促進することがおわかりいただけるかと思います。
3つ目に、ヒト・ヒト(対面)ビジネスの再構築が求められるようになりました。「こんなことまでオンラインでできるようになったのか」と便利に思う一方で、実際に会って話さないとクリアできないハードルがあるとも感じられたと思います。つまり、ヒト・ヒト・ビジネスの再構築を迫られたわけですが、オンラインでOKなもの、対面が望ましいものの取捨選択をする必要があります。対面ビジネスの根幹は、いかにセレンディピティ(偶発力、偶然力)を起こせるか、です。予期せぬ偶然をチャンスに変えるため、日頃から業務課題に対する感度を磨き、本質を追求する姿勢が、より求められるようになったわけです。
ただ、大きな変化といっても基本骨格が変わったわけでありません。柔軟にビジネスの手法や戦略を変えていくことが重要だと思います。
さて、現在は全業種・全産業が第4次産業革命(Industry4.0)の波にさらされています。Society5.0やWeb3.0など、未来の社会やインターネットの概念を表す言葉に悩まされている方もおられるでしょう。その代表的な取り組みが、DX(デジタル・トランスフォーメーション)です。言い換えれば「デジタルの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」となり、誰もが幸せになれる言葉に聞こえます。しかし、本当にそうでしょうか?
同じような意味で「デジタル・ディスラプション」という言葉があります。デジタルの浸透が、既存の社会構造や産業構造を根底から破壊してしまうことを指します。デジタル技術が事業領域、事業モデル、産業構造などの全てを変えてしまう、と言ったほうが的を射ているでしょう。
日本国内でも、この3年間でデジタル技術による格差が起き始めています。建設業界では、2022~23年にかけて大手ゼネコンや設計事務所、PM/CM企業がDX化への取り組みを同時発生的に始めていますが、さらにこれからの数年間が運命の分かれ道となり、来年、2025年が分岐点の始まりになるだろうと考えています。
Q : 今後、どのようなDX変革があるのでしょうか?
A : 2025年にデジタイゼーションが促進され、アナログで行っていた事務処理が大規模にデジタル化されることが予想されます。そして、2030年にはAI技術も含めて、さまざまな業務フローや業務プロセスが繋がるデジタライゼーションの時代が訪れます。
DXの鍵を握るのがプラットフォーマーです。ここでは、圧倒的な大手であるGAFAMの4社以外についてお話しします。まず、プラットフォームの原理ですが、Aを求める人とBを求める人をプラットフォーム上でマッチングして、両者が利益を享受できるという仕組みです。UberやAirbnbは2019年、創業から10年で時価総額を一気に伸ばしました。同年の大手ゼネコンの時価総額がおよそ2兆円だったのに対して、Uberは7兆円、Airbnbは3.3兆円だったことを考えると、Zoomの成長と似ています。
近年、他にも大小さまざまなマッチングサービスが出現しました。代表的なのが恋愛マッチングアプリです。北海道と九州に住む男女が東京で対面してすぐ、結婚の話がまとまったという事例もあります。従来、遠距離恋愛の2人が会うために使っていた旅費や、回数を重ねていたデート代を使わなくなったのです。
このように、プラットフォームに集まるビッグデータを分析してマーケティングを行い、さまざまなアイデアから生まれたイノベーションで、新しいビジネスモデルが次々と誕生しています。米国ではプラットフォームが新ビジネスを動かすエンジンとなっていて、プラットフォーマーとそれ以外の事業者には大きな格差が生まれつつあります。メタバースやWeb3.0など、インターネット空間を経済圏にし得る新しい技術も登場していますが、なかなか一人勝ちできない側面もある。そのため、Web2.0をベースにするプラットフォームでの新しいビジネス展開は、この先もしばらく続くのではないかと思っています。
Q : 日本の建設業界が目指すべき次世代ビジネスモデルの、ヒントはありますか?
A : 今後、日本の国内経済を動かすと予想される要素について考えてみます。日本の得意分野は「日本の魅力」と言われる分野で、皆さんの事業に代表される、技術、技能、知恵、人材もこれに含まれます。あるいは、環境、食、文化、ロボティクス、安全、清潔、正確、ホスピタリティなど、いわゆるクールジャパンと言われるものが当てはまります。加えて、「復興力」や「低炭素革命」「レジリエンスの力」など、言葉や概念は欧米の発祥ではありますが、元々日本が持っていた「省エネ力」も得意技だと自覚するべきでしょう。
また、日本は平均寿命、健康寿命ともに世界一であり、国民皆保険制度によって安く医療サービスを受けられます。例えば、日本でMRI検査を受けると、1回5,000~9,000円くらいですが、米国で保険未加入だと300万円かかります。日本の医療体制も大事にするべき強みです。
ただ日本は、それらの得意分野を次世代ビジネスモデルに繋ぐことが、意外と不得意なんですね。次世代ビジネスモデルの創出には、仕組み・組み合わせ・制度構築など、事業を展開するプラットフォームをコントロールする側に回る戦略が必要です。また、サブスクなど、サービスのマネタイズや、財務会計処理の仕組みなど、お金に関わるプラットフォームの構築も不可欠です。何らかの形でプラットフォームに参画していかないと、次世代ビジネスで主者になれず従者になってしまうということです。
ここで、建設産業の現状を把握しておきましょう。2024年度の建設投資額は70兆円を超える見通しで、バブル期の1988〜89年に匹敵します。一方で、2020年の就業者数はピークだったバブル期の約7割、全体の業者数は約8割まで減っていますから、現在は長期にわたる繁忙期となっています[スライド1]。また、建設業就業者の3割以上が55歳以上と高齢化が顕著です。建設は経験工学産業ですが、それでも、29歳以下が1割しかおらず、若者たちを建設業に呼び寄せる戦略が必要です。
人口動態を見ると、2025年以降は総人口も生産年齢人口も減少していくため、社会経済を成長させるには1人あたりのGDPを上げていくほかありません[スライド2]。建設産業においては、技術者ができる限り長く働くこと、効率化を図り生産性を上げること、熟練者から若者に技術を継承していくことが重要となります。これからの将来に向けて、社会構造の変革が必要とされる中、建設業界もリアルとデジタルの双方を駆使して変革を促進し、既存ビジネスからの脱却と、新しいビジネスモデルの仕組みづくりを進めていかなければなりません。
- 製造会社などが海外に移した生産拠点を再び自国へ移転すること。
- 特定の業務のアナログ的な作業をデジタル化すること。
- 業務フローや業務プロセスをデジタル化し、効率化すること。
- Google、Apple、Facebook(現META)、Amazonの頭文字を取って、巨大プラットフォーマー4社を指す。
PROFILE
ALFA PMC代表取締役社長
川原 秀仁
かわはら ひでひと
一級建築士、認定コンストラクション・マネジャー、認定ファシリティ・マネジャー/1960年佐賀県唐津市出身。大学卒業後、農用地開発/整備公団を経て、1991年株式会社山下設計に入社。その後、株式会社山下PMCに創業メンバーとして参画し、代表取締役社長、取締役会長を歴任。2023年3月に株式会社ALFA PMCを設立。著書に「施設参謀」(ダイヤモンド社、2015)、「プラットフォームビジネスの最強法則」(光文社、2019)など。
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Update : 2018.09.21