2024.12.17

設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.16

「開かれた厨房教室」を実現する
空調からのアプローチ

辻󠄀調理師専門学校 東京

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大学と住宅街の「あいだ」をデザインする

隣接する大学や地域と連携する新たな調理師専門学校として、技術だけではなく社会に目を向けることのできる学生を育成する場、地域社会に溶け込む開かれた学びの場の実現を目指したプロジェクトです。ここでは設備設計の立場から、「建物を周囲に溶け込ませる」というコンセプトを開放感のある空間構成で実現するため、他職能とのさまざまな調整を行いました。

特に、施設上のポイントとなったのが「厨房」です。一般的に閉鎖的になりがちな厨房を、ここでは「教室」として開放的につくりながら、快適な環境となるように配慮しました。こうした考え方のポイントをご紹介します。

北側外観。桜並木に面して、エントランスや厨房のある実習室、製菓店舗などが並び、道路から学生の活動の様子を伺うことができます。

建築コンセプトの実現に向けた設備設計からの取り組み

この建築では、普通教室には扉を設けずガラスパーティションで仕切り、中が見えるデザインとすることで、学生同士がお互いの活動を見られるつくりとしています。フリーアドレスに対応した教職員スペースも、壁や扉をなくして家具で仕切ったオープンな仕様に。学生と職員の垣根をなくして気軽に会話できる空間としています。
加えて、クライアントからの要望もあり、空間を広々と見せるためにこれらの空間には直天井を採用しました。露出するダクトなどに巻く保温材の仕様(色やサイズなど)は、意匠設計者と見え方を確認し、建築デザインと一体化するよう計画しています。

平面構成。北側に配された厨房のある教室・実習室は廊下と間仕切りで仕切られていますが、
廊下を挟んで南側に設けられた普通教室や教職員スペースは基本的に直天井とし、扉もないオープンなつくりとしました。

境界をなくし、つながった空間を目指した平面計画は、設備設計の観点から換気の「エアフロー」、すなわち各室の用途に応じて、給気・排気のあり方を検討し、建築物の内部全体での空気の流れを考えることで実現したものです。
普通教室や教職員スペースなどの廊下とつながった空間は、供給した外気の一部が廊下を通ってトイレなどから排気される計画としました。トイレの臭気が他室に拡散しないようにすることができるとともに、それぞれの部屋に換気設備を設置するよりも建築全体の設備量を減らすことができるため、省エネルギーで外気を屋内各所に供給できる計画となっています。

エアフローの構成。建築全体での最適な空気の流れをデザインします。

一方、厨房がある実習室などの「換気量が多い部屋」は、排気量と給気量をバランスさせることによってその部屋の中だけで換気を完結させるなど、部屋の用途に応じた空気の流れのデザインを行っています。
この際、厨房フードからの排気の量に伴い、部屋への給気量も多くなりますが、全てを外の空気そのままで取り入れるのではなく、その一部を外調機(外気処理空調機)で処理してから給気することで空気の温度を適切に管理し、利用者の快適性にも配慮しました。


空間の差異を意識した設計

厨房が設けられた教室や実習室の機能性・快適性を確保しつつ、オープンな設えの教室・廊下と空間のつながりを感じられる方法を考えました。
着目したのが、①オープンキッチンと座席がある実習室と、②教卓にのみ厨房がある教室です。
厨房部分と座席部分では発熱量、換気量、身体作業強度(代謝率レベル)が異なるため、温熱環境に大きな差が生じます。一体の空間として厨房部分に合わせて空調すると、座席部分はどうしても寒くなってしまうのです。

そこで、この「環境の差異」に着目して、あえてデザインと空調設備を区別した計画としました。
座席部分は他の部屋とデザインをそろえて直天井に。一方、厨房部分には天井を設置し、ダクトや配管などがほこり溜まりとならないように、かつ、厨房部の容積を減らして換気・空調効率が向上するように配慮しました。広い空間を感じられるよう、この設置範囲はなるべく最小限にすべく、天井裏の空調機器や吹き出し口・吸い込み口の納まりを密に調整しました。

また、天井デザインに合わせて厨房部分と座席部分を区分し、それぞれで温度設定を変えられるように空調ゾーニングを図りました。これにより、使い方を問わず利用者が快適な環境で過ごすことができます。教卓にのみ厨房が設置された教室では、厨房を使うときと使わないときの換気量が違うため、換気設備を使い分けられるようにしました。

今日、省エネ性の向上といった技術的アプローチは一層の重要性を増しています。こうした取り組みに留まらず、実際の使われ方に着目して、建築のデザインと機能を両立した設計を目指すことも設備設計の重要な課題ではないかと考えています。

Designer's Voice

機械設備設計部 / 2020年入社

本村 彬

Motomura Akira

主担当として設計から監理まで携わった、とても思い入れのあるプロジェクトです。調理師専門学校という特殊な用途で厨房設備が多いため、機械設備設計としては非常にやりがいがありました。厨房の設計はもちろん、「オープンな」調理専門学校をつくるために試行錯誤したので、とてもよい経験になったと思っています。
※所属はプロジェクト担当時点

Data

物件名

辻󠄀調理師専門学校 東京

所在地

東京都小金井市

敷地面積

3,948㎡

延床面積

4,998㎡

階数

地上3階、塔屋1階

構造

S造

用途

教育施設

竣工年

2023年

当社業務

設計、監理

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