2023.04.15
わたしたちのまちづくりサミット Vol.01
イベントレポート:
地域の枠を超えたこれからのまちづくりとは。
《前編》
わたしたちのまちづくりサミット ─BEYOND LOCAL─を秋田県男鹿市で開催
人口減少が進む日本では、特に東京をはじめとする大都市以外の地域での人不足・リソース不足が深刻になりつつあります。そんな時代だからこそ、各地域が手を取り合い、双方向で活性化していくことが必要不可欠ではないか─。今回おこなわれたイベントの大きなテーマです。
会場となった秋田県は、人口減少率が日本トップ。なかでも、男鹿市は県内で三番目に減少率が高いエリアです。この男鹿市に、地域内外からさまざまなプレイヤーが集結し、まちづくりに関する各地域のチャレンジやアイデアを共有・発 信する場が設けられました。地域を跨いで循環させることで、各地域の魅力を活かした「これからのまちづくり」を模索する場「わたしたちのまちづくりサミット ─BEYOND LOCAL─」です。
秋田県男鹿市でサケ造りの枠を超えて地域活性化を実践する株式会社稲とアガベ、農と食を通じた地域と都市の豊かな関係づくりを目指す「めぐるめくプロジェクト」を始動した三菱地所株式会社、「まちづくり」をアイデンティティに都市・地域でプロジェクトを進める株式会社三菱地所設計の3社が「わたまちサミット実行委員会」を結成し、このイベントの運営を行いました。
本レポートでは、サミット当日の様子を前後編でご紹介します。
1.稲とアガベの男鹿まち歩き
サミット開始に先立って行われたのは、「稲とアガベ」代表の岡住修兵さんが案内する男鹿のまち歩き。
参加者15名の限定プログラムです。
稲とアガベは、男鹿市で2021年に創業した「クラフトサケ」の醸造所。「クラフトサケ」とは、日本酒の製造技術をベースに副原料を加えることで生まれた新ジャンルのお酒です。例えば、ビールのようにホップを入れてみたり、ブドウを入れてフルーティーな味わいにしたり。りんごを入れて、日本酒とシードルの「良いとこ取り」のようなお酒をつくることもできるそうです。
「このまちをお酒のまちにしたいんです」
まち歩きの冒頭で、稲とアガベの岡住さんが話ったのは「男鹿 酒シティ構想」。
そう語る背景には、男鹿市の人口減少という課題がありました。
「今のまま人口減少が進めば、僕が生きているうちに男鹿はなくなると思います。このまちが未来に続くために動きたい。『男鹿=酒のまち』という認知がされれば、このまちが後世にも存在し続けてくれるんじゃないか、と」
福岡県出身の岡住さんですが、以前働いていた酒蔵がある秋田県に恩返しをするために男鹿市で起業しました。人口が減っていくまちを、酒というツールで盛り上げようと活動しています。
その盛り上げ方は、醸造所でクラフトサケをつくることに留まりません。レストランや宿の計画など「稲とアガベがあるから、男鹿に行こう」と思ってもらえるようなまちづくりを進めています。
「この空き家はこれから変わっていく」と次々に建物を紹介する岡住さん。稲とアガベ醸造所の目の前の空き家では、ラーメン屋を始めるそうです。岡住さんの夢に共感した博多一風堂が監修に入り、開店準備を進めています(2023年8月、ラーメン「おがや」としてオープン)。
また、2023年3月末に稲とアガベが新たにつくった食品加工所も、もともと空き家だった場所。お酒づくりをする中で生まれる酒粕を使った「発酵マヨ」を製造・販売する場所です。その他にも、地元の有志の方が集まってできたカフェが開設したり、それがきっかけで若者が集い起業するなどのチャレンジが生まれているそうです。また、2018年に男鹿駅が旧駅舎の至近に新築・移設されたことがきっかけで、男鹿市が旧駅舎周辺の土地を買い取り、駅前広場としてどんどん整備を進めています。地域内外の多くの人が関わりながら、まちに新しい命が吹き込まれています。
「このまちのシャッターを開けたい」と話す岡住さんに連れられた、稲とアガベからサミット会場までの道のり。徒歩10分程度の範囲でもまちが変わっていく様子が感じられ、参加者一同ワクワクしました。
2.オープニングトーク
サミットのスタートは、サミット実行委員長の岡住さん、企画を行った三菱地所の広瀬拓哉さん、事務局を務めた三菱地所設計の三好史晃さんのオープニングトークから。3人が今回の企画を男鹿で始めた理由を語ります。
広瀬
私が所属する三菱地所で、食と農をテーマにしたコミュニティ『めぐるめくプロジェクト』の取り組みを行うなか、『地域内で完結させるのではなく、いろいろなプレイヤーが入り混じることが地域活性化につながるのではないか』と考えていました。岡住さんと出会い、地域における食とまちづくりの接点を考えていくうちに、今回のサミットの構想が生まれました。
三好
三菱地所設計は、建物を企画・設計するのがメインの仕事です。しかし、その根底には常に「まちづくり」という大きな考え方があります。建物をつくりながら、目指しているところは「コミュニティを生む」ことなんです。
まちの話を聞く中で、たくさんの魅力がつまっている男鹿でいろいろなコトが起こり始めていると感じ、そのまちの今と未来を絵に描くとまちの楽しさを共有できるものになるのでは、という想いで描いたそう。三好さんは「この絵に描かれているよりも、もっともっと広がりのある男鹿のまちを見つけていきたい」とオープニングトークで話しました。
オープニングトークの最後には、男鹿市長である菅原広二さんにもご挨拶をいただきました。
菅原市長
私は71年間、男鹿市に住み続けていますが、こんなにいいところはありません。素晴らしい景観、漁れる140種類以上の魚、なまはげの伝統文化。人口が減少していても、男鹿はいいところだとみんなが思っているんです。今、男鹿にはいい風が吹いています。ひとつは洋上風力発電です。秋田県は日本の洋上風力がスタートした地。世界の脱炭素に貢献したいという思いがあります。
そしてもうひとつは「利他の風」。岡住くんを初め、若い人たちがなんとか地域を活性化したいという思いを持って、語ってくれています。「利他」の心を持った若者たちが来てくれて非常に嬉しい。今までの概念にこだわらずにチャレンジするところに私は感心していますし、ぜひみんなで支援していきたい。新しい文化をつくっていくことが男鹿を変え、秋田県を変えて、日本を変えていく。みなさん、今日は一緒に盛り上げていきましょう!
3.基調講演:
世界があこがれる九州をつくる「九州アイランドプロジェクト」
村岡 浩司 氏
SPEAKER
村岡 浩司 氏
人口12,000人のまち、宮崎市高岡町で廃校となった小学校をリノベーションし、カフェやシェアオフィス・コワーキングを併設するMUKASA-HUBを運営。「世界があこがれる九州をつくる」を掲げ、九州産の食材を用いた「九州パンケーキミックス」などの商品開発、国内外でのカフェ・飲食店の展開を実施。食を通じた地域活性化・コミュニティ創生にも取り組む。
九州全域で飲食店を展開する一平ホールディングスの村岡さん。「世界があこがれる九州をつくる」を掲げる「KYUSHU ISLAND」を率いて、九州産の農業素材で作られた「九州パンケーキミックス」をはじめとする商品開発のほか、カフェや飲食店を国内外に展開。食を通じた地域活性化やコミュニティ創生にも取り組んでいます。
「何かやれることはないか、と足掻いてきた3年間の記憶を皆さんにお届けします」と、新型コロナ禍からの再生を赤裸々に語りました。
村岡
コロナ禍でドーンと売上が下がってしまった中、時間だけはあったので、散歩をしながらずっと、自分にできることは何なのかを考えていました。そこでひらめいたのは、『宮崎だけではできないけど、九州全域をつなぎ合わせればできることがある』ということ。例えば、宮崎県は小麦をつくっていませんが、九州全体を見ると日本の3割くらいの小麦をつくっています。注目されていない商品も、みんなで力を合わせてプロモーションしていくなど、広域経済圏で括るという発想は今までありませんでした。その結果、九州一帯でいくつもの新商品が生まれ、成功していったんです。
新たな価値軸として、このまちしかできないことを『スーパーローカル』と僕らは呼んでいます。ローカルは場所の話ではなく、人や体験、みんながまちの中で誇りに思っているもの、そこでしか味わえないもの、そういう意味です。『地方』『田舎』といえば途端に社会課題だけが目につきます。そうではなくて、価値に目を向けること。『めぐるめくプロジェクト』のご縁で宮崎の端っこからここに来て、みなさんとつながることができ、おもしろい時代の流れを感じています。
4.基調講演:
男鹿の未来をつくる「男鹿 酒シティ構想」
岡住 修兵 氏
SPEAKER
岡住 修兵 氏
秋田県で酒造りを学んだ後、2021年に「稲とアガベ醸造所」を秋田県男鹿市にオープン。「クラフトサケ」をはじめ、酒粕を使った発酵マヨの製造や、ラーメン店、雑貨店の経営など、地域で多岐にわたる事業を展開、地域づくりにも積極的に取り組む。クラフトサケブリュワリー協会会長。
岡住さんは「このプレゼンを通して、仲間集めがしたいんです」と話し始めました。
岡住
僕は福岡県出身で、2014年に秋田市の蔵元・新政酒造で働き始めたことをきっかけに秋田県に引っ越してきました。『なんで秋田出身じゃないのに、こんなに頑張ってやっているの』とよく聞かれますが、僕は秋田に恩義を感じているんです。秋田に来る前は精神的にボロボロで。けれど一念発起して、何か秋田にあるかもしれないと思って来たんです。
新政酒造の人に支えてもらい、秋田の人たちに手を繋いでもらい、引っ張り上げてもらって、僕は今、生きているんですよね。真剣に『秋田の人に生かされている』感覚があります。僕はこの秋田に恩返しがしたい。その方法として、まちに仕事をつくりたい。そう言っていたら、本当に多くの方が手伝いをしてくれています。お酒を通して来てくれた人に『あなたの力が必要なので、人生のうち1%の力を使ってくれませんか』と聞くと、大体みんな10%くらい使ってくれるんです。
実は、この後登壇いただく石田 遼さんと、稲とアガベCFOの斉藤さんと3人で、2023年3月22日の『男鹿市の日』に、まちづくりの会社をつくります。(株式会社男鹿まち企画)。お酒以外の新たなコンテンツとして、鵜ノ崎海岸のリブランディングをやっていきたい。このプレゼンを聞いて、何か一緒にできそうだと思う方がいれば、声をかけてください。
後編では、ピッチとトークセッションでさらに議論を深めていきます。ぜひご覧ください。
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Update : 2023.04.15