「本社ビル×ニコン」ならではの快適な空間・環境のつくり方とは?
「快適でフレキシブルなオフィス空間づくり」が設計当初からのテーマとなった「ニコン 本社/イノベーションセンター」。一口に「快適」といっても、安全・安心が実感できる快適性、フレキシブルな働き方による快適性、光や温湿度環境に配慮した空間の快適性、メンテナンスの容易さがもたらす快適性など、執務者・来館者・近隣住民・ビル管理者といった関係者それぞれのさまざまな観点が考えられます。
Vol.17に引き続き、本ビルならではの「快適さ」を実現する空間・環境づくりに不可欠な、設備の側面からの取り組みをご紹介します。
災害に「耐え」、災害後も「事業が継続する」ビルの実現
昨今、地震やゲリラ豪雨などの災害が急激に多くなっています。「安全・安心なビル」を考えることは私たち設計者としての大切な役割ですが、そこでは「災害に耐えられること」「災害後も事業を継続できること」の双方が重要です。特にこのプロジェクトでは、企業の本社ビルとして、その機能向上が強く求められました。
まず「災害に耐える」ため、このビルは基礎免震構造で揺れが直接建物に伝わらないようにして、執務者や設備機器の安全性を高めています。そこで、免震層を通過する設備を保護するために、各種配線の変位量以上の余長を設けています。また、発電機のオイル配管は免震継手で水平・鉛直方向の変位を吸収できるようにしています。
水害対策の上では、重要諸室の配置計画も大切です。特高電気室・副電気室・非常用発電機室・サーバー室は全て2階に設け、地上からの浸水を防いでいます。
加えて、災害後の「事業継続」の上で最重要となるのが電源の信頼性の確保です。ここでは異なる変電所から電源を供給する22kVの本線+予備電源線による2回線受電方式とし、万が一、本線で停電が生じても、別の変電所から予備電源線で受電し、停電時間を短縮することができます。また、広域停電や受変電機器故障等のリスクを考慮し、500kVAのガスタービン式発電機2台で非常電源を構成し、72時間分の備蓄燃料を確保しています。
こうした地震・水害などに加え、近年注視されているのが富士山の噴火対策です。噴火時に広域停電が発生した際、火山灰が詰まって発電機が起動しない……なんてことにならないよう、外気取り入れ側には火山灰フィルターを設けたチャンバー室を計画し、降灰による影響を低減させる計画としています。
上:各所にポータブルバッテリーの充電ステーションを設置。屋外テラスなど電源のない場所でも働く場所を自由に選択できる(ABW/Activity Based Working)だけでなく、災害時や停電時には緊急の電源としても利用できる、BCP対応の一環にもなります。下:災害時の帰宅困難者待機スペースや近隣受け入れエリアには、太陽が出ていれば停電時でも利用できる太陽光自立運転用のコンセントを設置。
屋上も働く場所に/広い屋上を活かした省エネ・創エネ
日影規制に則り建物をセットバックして生まれた各階の広い屋上を活かし、積極的な省エネ・創エネに取り組んでいます。
まずは屋上緑化。散策ができるほど広い、緑豊かな屋上テラスは、室内の断熱性を高め省エネルギー性をアップするとともに、蒸発散効果によるヒートアイランド対策に寄与します。晴れの日はこんな気持ちのよいテラスで仕事ができるといいですよね。そんな声にも応え、Wi-Fi用アンテナや点在するテーブルに照明・コンセントを設け、ABW(Activity Based Working/仕事の内容に応じて、ワーカーが効率的な業務のために最適な場所を自ら選ぶ働き方)を支えています。
また、建物の最も高い場所には134kW分の太陽光パネルを設置。都内でこれだけの規模の太陽光パネルを設置しているオフィスビルは少数。来客ゾーンの表示モニターには日射量や発電量をリアルタイム表示し、ニコンの環境対策への想いを示すものとなっています。
右:夕景。テーブルやベンチ、プレゼンスペースなど、屋外にもさまざまな居場所を計画。
右:日射量や発電量をリアルタイム表示するモニター。
地域に寄り添うビルを目指して
住宅街という地域性に配慮して低層で構成した本建物では、周囲に馴染み、調和するように外装庇のライトアップを計画しました。横基調の庇を柔らかい間接的な光でライトアップすることで、通りに面して「ニコンの光」のラインを演出しています。
ここでは、照明を納めるためのボックスにも工夫を凝らしています。近隣配慮の観点から、ライトアップの光が庇から極力出ないよう、照明ボックスのスリットサイズを調整し、配光をコントロールしています。蓋を取り外せる形状とするなど、照明器具の交換方法も考慮しました。
本ビルが建つ前は、街路灯が点在しているだけの通りだったのですが、今回の新築に伴い、庭園灯や樹木のライトアップで足元の明るさも確保しています。庭園灯の一部は常夜灯とし、夜間の歩行者動線の明るさを確保するなど、地域の安全性向上への貢献を図っています。
Data
| 物件名 | |
|---|---|
| 竣工年 | 2024年 |
| 所在地 | 東京都品川区西大井1丁目5 |
| 敷地面積 | 18,063.61㎡ |
| 延床面積 | 42,423.98㎡ |
| 階数 | 地上6階、塔屋1階 |
| 構造 | S造、一部RC造 |
OTHER COLUMNS
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.23
大阪の玄関口を支える地域冷暖房の取り組み
大阪駅周辺エリアの地域冷暖房(DHC)システム
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.22
「ショートサーキュラー」を実現するパビリオンの設備計画
2025年大阪・関西万博 三菱未来館
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.21
信頼と創造を支える設備(電気編・後)
美しさと遊び心を散りばめた電気設備
ニコン 本社/イノベーションセンター
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.20
信頼と創造を支える設備(電気編・前)
快適+安心・安全を兼ね備えた本社ビルづくり
ニコン 本社/イノベーションセンター
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.19
中規模テナントオフィスビルで挑む
ウェルネス×省エネの両立(後)
フロントプレイス千代田一番町
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.18
中規模テナントオフィスビルで挑む
ウェルネス×省エネの両立(前)
フロントプレイス千代田一番町
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.17
信頼と創造を支える設備(機械編)
フレキシブルなオフィスを生み出す空調
ニコン 本社/イノベーションセンター
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.16
「開かれた厨房教室」を実現する
空調からのアプローチ
辻󠄀調理師専門学校 東京
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.15
木と調和した快適な空間を実現するためのアイデア
熊本東京海上日動ビルディング
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.14
新時代に向けた「木造のハードル」を乗り越える設備計画
ザ ロイヤルパーク キャンバス札幌大通公園
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.13
「脱・単純リプレース」へ ZEB 化リノベーションの取り組み方(後)
既存ストックのZEB化改修
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート No.12
「脱・単純リプレース」へ ZEB 化リノベーションの取り組み方(前)
既存ストックのZEB化改修
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.11
快適な「空気」環境を再エネでつくる
高砂熱学イノベーションセンター
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.10
光・風・温度を空間全体に届ける
成徳幼稚園
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.09
照明設計で実現する、省エネでアイコニックな読書空間
MUFG PARK ライブラリー
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.08
照明からデータ活用、セキュリティまで広がる「電気」の仕事
ふかや花園プレミアム・アウトレット
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.07
都市を支える「設備」からの仕掛け
大手町センター & Otemachi Oneサブプラント / 再開発に伴うDHCプラント移転
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.06
「水の自立」でまち全体のBCPに貢献を
大手町フィナンシャルシティ グランキューブ
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.05
より快適で、よりスマートで、より環境に優しいオフィスの実現
茅場町グリーンビルディング
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.04
天井を「這わせて」省エネルギーで空気を届ける
新菱神城ビル
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.03
放射空調の自然エネルギー活用の道を切り拓く
新菱神城ビル
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.02
さまざまな想い・環境から生まれた照明デザイン
新菱神城ビル
設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.01
超⾼層ビルでも、ZEB Ready取得
(仮称)内神⽥⼀丁⽬計画
Update : 2025.07.11