前回に引き続き、ニコン 本社/イノベーションセンターにおける設備面での取り組みを紹介します。今回は電気設備の後編です。
建築計画と一体で実現する「ニコンの光」
室内で特に注力したのは、エリアごとに異なるさまざまな天井の形状・仕様に対し、それらの意匠的なデザインと照明計画を融合させることです。
特徴的なのは、執務室のPC床版あらわしの天井です。緩やかなアーチ断面の頂部スリットに幅25mmと細くシャープなLEDライン照明器具をシームレスに仕込むことで、ビル内でも「ニコンの光」のラインを表現し、PC床版の意匠性をより引き立たせる計画としました。机上面の平均照度は500lxと十分な機能性を確保するだけでなく、アーチ状の天井そのものを明るく照らし出すことで、照度以上の「明るさ感」のある空間が実現しました。
また、窓側のPC床版の端部形状を舟形にせり上がらせることで開口部を拡大。ライトシェルフからの柔らかな反射光を屋内に取り入れ、自然光と人工照明が調和する生産性と快適性の高い光環境を実現しました。オフィスでは稀な大規模な昼光利用は省エネルギー化にも寄与します。
右:執務室内観。窓から遠い場所でも、外部からの光を感じることができます。
PC床版の見え方は設計段階から特にこだわっており、実物大の模型を作成して、設計メンバーで照明器具の発光部の露出範囲や意匠的な見え方、スリットの幅など細部にわたり確認・意見交換を行ったことは良い思い出です。
「迎え入れる」空間をつくる光のデザイン
ビルの顔となるエントランスホールは、星空のようなランダム照明や、プリズムの形をモチーフにしたテラコッタタイルの陰影を繊細に演出する光壁など、光によるさまざまな空間演出を行いました。
エレベータホールの天井にはレースカーテンの重なりをイメージした三軸織物のルーバーを採用。ルーバー間にライン照明を設け、織物を透過してにじみ出る柔らかい光が、モアレ(干渉縞)現象と融合した照明環境をつくり出しています。
見上げると、実は「NIKON」の文字が隠れているなど、遊び心も散りばめました!
交流と発信を生み出す電気設備の取り組み
このビルの特徴となっているのが、オフィスとオフィスの間に設けられたラウンジやキッチンなどのコミュニケーションエリアです。ガラスや陶器のさまざまなペンダント照明を採用。執務室とは全く異なる空間を演出できる一方で課題も多く、地震の揺れによる器具同士の衝突を防ぐためには振れ止めなどの対策を講じる必要がありました。
ただ、振れ止めは美観を損なう要因にもなるため、意匠担当者や施工者と何度も打ち合わせを行い、照明ごとにそれぞれの空間に適した設置方法を検討しました。家具との干渉や照明自体の影が見えてしまうなど、より人に近い場所の小規模な設備だからこその思わぬ課題もあり、実は施工段階で調整が難しかったことのひとつです。
こうしたスペースとともに展望仕様の窓があるエレベータを設けました。一般的にエレベータシャフト周囲に設けられる壁がないため、ホールや執務室からその動きや仕組みをダイレクトに見ることができます。エレベータってどう動いているの? と気になる方には必見です!
上下階に移動しながら各階のにぎわいやつながりを感じられ、これもまた、コミュニケーション向上に寄与する仕組みのひとつです。
最後に紹介するのは、エントランスホールに設けた1~2階をつなぐ大階段を利用したアトリウムと、そこに彩りを添える大型LEDビジョンです。大階段の中央部の段差は人が腰かけられる高さに。周囲をシャッターや暗幕で間仕切れば、イベント会場へ変化させることもできます。階段の足元にはコンセントを設け、PCなどの充電対応もばっちり。下の写真は、実際にイベント会場として利用されている様子です。私たち電気設備設計者はもちろん、意匠や構造など、この建築に携わったさまざまな設計者が目指した使われ方をされていて、大変嬉しく思いました。
Designer's Voice
設計者
電気設備設計部 / 2012年入社
長濱 絵理
Eri Nagahama
本プロジェクトでは、コンペから設計・現場監理の一連を担当し、子どもを育てるような感覚で竣工を迎えました。特に施工段階では思わぬトラブルなどもありましたが、さまざまな取り組みや工夫を取り入れた素敵な建築が完成したと自負しています。
プロジェクトを通して、設計者・監理者として多くのことを学ばせていただきました。また、設計の想いを受け入れ、ご理解いただいたニコン様、ご協力いただいた施工者様、他関係各社様へ心より感謝申し上げます。今後も、働き方や使い方の変化に適応して成長する建物であり続けていく姿を見られたらと思います。
ドローンで撮影したオフィスツアーの映像も公開されています。
ぜひご覧ください!
※所属はプロジェクト担当時点
Data
| 物件名 | |
|---|---|
| 竣工年 | 2024年 |
| 所在地 | 東京都品川区西大井1丁目5 |
| 敷地面積 | 18,063.61㎡ |
| 延床面積 | 42,423.98㎡ |
| 階数 | 地上6階、塔屋1階 |
| 構造 | S造 一部RC造 |
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Update : 2025.07.11