2025.08.18

設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.22

「ショートサーキュラー」を実現するパビリオンの設備計画

2025年大阪・関西万博 三菱未来館

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運用期間半年・仮設パビリオンならではの設計

今回紹介するのは、2025年大阪・関西万博の三菱グループパビリオン「三菱未来館」です。地下1階・地上2階建て、すり鉢状に整地された楕円形の半地下空間の上に、ひし形の建築とそこに内接する長方形の建築が覆いかぶさる構成となっています。ここでは、運用期間半年というパビリオン=仮設建築物ならではの「ローテクな」手法に取り組んだ事例をご紹介します。

「生命・地球・人間」のつながりをデザインコンセプトとするパビリオン。鋼製足場板や単管パイプ、ポリカーボネート折板といった工事現場で使用される素材を本設空間に美しく転用。来場者は見慣れた素材の意外な使い方に驚き、持続可能性という裏テーマにも自然に触れることになります。

万博パビリオンという性質上、半年間の運用期間を終えると解体されてしまうため、環境負荷や廃棄物量を最小限に抑えることを目指しました。断熱された「完全な内部空間」は必要最低限の範囲とし、空調設備および照明設備が必要なエリアを絞ることにしました。高度なテクノロジーではなく、シンプルな手法でサステイナブルを追求する命題に向き合った計画になっています。

三菱未来館 パース
小さな資源循環=「ショートサーキュラー」建築の断面。パビリオンは半年間の会期の後に解体し、敷地を元の状態に戻すことが決まっています。

そこで、来場者が利用するエリアの空調方式は、(万博協会から供給される冷水を熱源とした)コンパクト空調機1台のみの構成としました。空調機の機械室内は最低限のメンテナンスができるスペースだけを確保しています。半年間という短い運用を踏まえ、その間の機器更新や機材搬出入はないものと想定しているためです。こうした工夫により、 パビリオンとしての空間効率を最大化しました。また、バックオフィスの諸室はルームエアコンによる個別熱源としています。ここでも短期間の運用に合わせた計画として、海水に囲まれた立地ではありますが、潮風にさらされる地域に採用される仕様ではなく標準仕様の室外機を採用しています。

また、メインコンテンツとなる映像体験の前後の動線にあたる「スタンバイ」「ポストショー」は、透明感のあるポリカーボネート製の外壁越しに自然光を取り込む吹き抜けの空間となっており、通路部分以外には照明器具を設置しない計画としました。一般的に、吹き抜け空間の照明器具はメンテナンスのために足場を立てる必要がありますが、こうした作業を不要とする、建物維持管理のしやすさにも配慮した計画としています。

「ポストショー」エリアの内観。照明は壁面に設置しています。

本パビリオンでは屋外に設けた受変電設備から各所に電源供給を行っていますが、限られた運用期間のため、この受変電設備にはリース品を採用しています。電気の供給は、展示コンテンツの映像や音響とバックオフィス関連のものが混在しないよう、利用用途ごとに供給系統を分けたシンプルな系統とすることで、 電源系統トラブルが発生した際の影響範囲を最小限にする計画としています。

屋外電気室。リース品の屋外受変電設備。

パビリオンのコンセプトを体現する「ウェイティングパーク」

「ウェイティングパーク」には、ここに覆いかぶさる上部の建物による日射遮蔽と掘り下げた地面から伝わる冷気、また、海からの冷たい風が心地よく流れ込みます。風通しのよい涼しい待機スペースとしてすべての来場者に開放されています。

冒頭で紹介した建物唯一のコンパクト空調機は1階機械室に設置。直下の「ウェイティングパーク」から外気を取り入れる計画とすることで、取り入れ外気の温度を下げて省エネ化を図るだけでなく、ダクトの長さを最小限として資材の削減と搬送能力の低減を図る合理的・経済的な計画です。

 

風を循環させる手助けとして移動式の扇風機を設置していますが、実は工事現場で使われているものです。照明も工事現場で採用されている器具を採用しており、会期終了後には他の現場でも使えるようにしています。空調、照明器具をリユースできる製品にすることで、「小さな資源循環」=ショートサーキュラーの様子を来館者にも分かりやすく伝えるための工夫としています。

地下1階「ウェイティングパーク」。一般的に工事現場で使用される照明や扇風機のみによる設備計画。

万博ならではの特殊な敷地条件を、関係者間の調整で乗り切る

通常の敷地における建築設計の際は、設備設計者がその場所のインフラに関する情報を行政資料や現地調査から集めることが一般的です。インフラの引き込み位置についても、設備設計者が主体となって、各インフラ機関と協議を進めて決定していきます。

しかし、この万博会場では万博協会(2025年日本国際博覧会協会) がインフラ整備を一から行っており、各パビリオンの敷地には当初からインフラの引き込み位置が指定されていました。インフラの位置が指定されるということは、建物へのインフラルートやスペースなどが規定されるということ。設備設計が建築計画に与える影響が大きく、全職能が一体となって調整することで無駄のないプランニングを実現しました。

メインショー内のダクト設備と展示用モニター支持鉄骨の納まり。

今回の万博を建設するにあたって、万博協会は設計与件や工事条件などのガイドラインを発行していました。ただし、「三菱未来館」は他の民間パビリオンよりも設計が先行していたため、設計の初期段階では未だ検討中だったガイドラインもあり、設計を進めながらその内容との整合を確認することを繰り返していきました。着工後もガイドラインの改定や新規発行などがあったため、情報のキャッチアップや設備仕様の見直しなど、建物竣工に至るまでさまざまな調整を随時行ってきました。

また、現場に行っての対面打ち合わせの他、Web会議を活用しながら円滑なコミュニケーションを図ることで、課題を一つひとつ解決することができました。

設備設計に関わる情報の取りまとめに苦労しながらも、民間パビリオンの中で栄誉ある「竣工第一号」になれたことは、全職能一体となって取り組めた成果であると感じています。

北西から見た外観。本設空間に使用した素材は会期後の転用を見据えており、三菱未来館は「建築そのものとそのライフサイクル全体を統合する思想的実験」を体現しています。

Designer's Voice

設計者

電気設備設計部 / 2008年入社

岩田 光平

Kohei Iwata

大阪・関西万博の1パビリオンとしてここに携われる喜びがある一方、会期終了後にはなくなってしまう寂しさもあり、特別なプロジェクトになりました。建物竣工に至るまで事業者、施工者、設計者がよいものをつくろうと一丸となり、魅力あるパビリオンが完成できたと思っています。一定期間で解体される仮設の建物ですが、建築空間としていかにキレイに見せるか全職能一体となって取り組みました。完成した三菱未来館をぜひご覧いただければ幸いです。
※所属はプロジェクト担当時点

設計者

機械設備設計部 / 2021年入社

永島 啓陽

Hiroaki Nagashima

入社して初めて手掛け、竣工を迎えた物件が「三菱未来館」でした。仮設建築物なので会期終了後は解体が決定していますが、短期間でこれだけ多くの来場者が訪れる建物の設計に関われたことを嬉しく思います。建築空間としてチャレンジングな計画も多く、当時右も左もわからなかった私としては苦労する場面も多かったですが、関係者で一丸となってつくり上げることができた思い出のプロジェクトになりました。
※所属はプロジェクト担当時点

Data

物件名

2025年大阪・関西万博 三菱未来館

用途
パビリオン
敷地面積

3,476.46㎡

延床面積

2,075.83㎡

階数

地上2階、地下1階

構造

鉄骨造、木造

当社業務

設計、監理

開催期間

2025年4月13日~10月13日

関連リンク

愛・地球博 三菱未来館@earth

写真

ナカサアンドパートナーズ

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Update : 2025.08.18

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