2025.09.04

設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.23

大阪の玄関口を支える地域冷暖房の取り組み

大阪駅周辺エリアの地域冷暖房(DHC)システム

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国際都市・大阪の玄関口を支えるDHC

関西地方における最重要交通拠点といえる大阪駅では、TOD(交通指向型開発)を中核とした再開発が進められています。世界水準の都市空間を目指してオフィス・商業施設・ホテルが次々と整備され、単なる交通の拠点を超え、居住・就業・交流・滞在がシームレスに結びつく「国際都市の玄関口」として大きく進化を遂げています。

当社は、この大阪駅におけるTODの地域冷暖房(DHC)システムの計画・設計・運用支援に長年取り組み、世界水準のまちづくりを技術で支えてきました。今回はその取り組みについてご紹介します。

大阪駅と「大阪ステーションシティ ノースゲートビルディング」

Stage1:日本最高効率を達成した「ノースゲートビルディング」の地域冷暖房

私たちが2005年に設計に着手したDHCプラントである「第2プラント」は、水害対策などのために「大阪ステーションシティ ノースゲートビルディング」低層部の最上階である13階に位置しています。BCP(事業継続計画)への意識が今ほど高くない当時としては、ビルの中間階に機械室を配置する先駆けと呼べるものでした。

また、直上階に冷却塔を設置することで、冷却水ポンプの搬送動力を著しく低下させることができました。このように建築計画とあわせて、省エネルギーシステムが計画されたのも本プロジェクトの特徴です。

左:「第2プラント」冷凍機機械室
右:低層部最上階(13階)の冷凍機機械室と冷却塔との位置関係。冷却塔が直上にあるため、冷却水の搬送動力を大幅に抑えることができました。

竣工後も3年間にわたり、熱供給会社、施工者と協力して、データ分析に基づく最適運転検討を継続的に行うことでエネルギー効率の向上を実現し、当時、日本国内のDHCの中で最高効率を達成しました。これらの成果は学術的にも高く評価され、「空気調和・衛生工学会学会賞 技術賞」(2014年)の受賞に至りました。さらに、昨年度には、10年間の高効率運転の維持を評価され、同学会賞の「特別賞 10年賞」(2024年)をいただくことができました。

左:必要な冷房能力に合わせて運転を制御できるインバータターボ冷凍機の機器特性に基づき最適な冷凍機の起動・停止を実施。運用2年目には1年目よりもシステムCOP(Coefficient of Performance、エネルギー消費効率。消費エネルギーに対する熱供給量の比率を示す、熱源システムの効率を表す指標)を向上することができました。
右:10年間のシステムCOPの推移。データ分析による最適運転検討を継続し、高効率の運転を達成し続けてきました。

Stage2:供給エリアの拡大、そして海外展開へ

地域の成長とともに広がる供給ネットワーク

2010年代より「100年に一度」とも称される大規模な再開発が進む大阪駅周辺では、昨年から今年にかけて「JPタワー大阪」、「グラングリーン大阪」、「イノゲート大阪」の開業や、大阪駅の拡張などが行われてきました。

この再開発において、当社は「第2プラント」で培った設計・運用改善のノウハウを活かし、以下の3つのプラントを新たに設計してきました。

・第3プラント(「JPタワー大阪」内)
・第4プラント(「グラングリーン大阪 北街区」内)
・第5プラント(「グラングリーン大阪 南街区」内)

これにより、本地区の地域冷暖房の供給面積は従来の30から100以上へと大幅に拡大し、日本有数のDHC供給エリアへと成長を遂げました。プラント間の熱融通(プラント同士を配管で連結し、冷水・温水などの熱を融通すること)を行い、まち全体のエネルギー効率を向上させています。

大阪駅とその周辺に広がる地域冷暖房プラントとその供給エリア(提供:大阪エネルギーサービス)

みどり豊かで広大な公園が広がる「グラングリーン大阪」のエリアエネルギー計画においては、南街区・北街区を地域導管でつなぎ、熱融通を行うことで、省エネルギー性、レジリエンスの向上を図りました。

第5プラント(「グラングリーン大阪 南街区」内)

海外プロジェクトへの技術展開

海外に目を向けると、東南アジアのASEAN地域においても、地域冷房(DCSDistrict Cooling System、当地では冷房のみ必要とされます)を軸としたエリアエネルギー開発が、都市の省エネルギーシステムとして積極的に進められています。

私たちは、日本国内でのDHC実績とノウハウを掲げてシンガポールなど海外のDCSプロジェクトに携わっています。海外でも私たちの技術力は高く評価されており、日本の地域熱供給で「どのように効率的なエネルギー供給を実現しているのか」といった質問を受けることも少なくありません。現地の課題に対して、日本の技術をベースにした提案が期待される場面も多くあります。

また、多様な文化や価値観に触れながらグローバルな課題に取り組む経験は、技術者としての成長を得られる貴重な機会ともなっています。「私たちの技術で、世界の街をより良くする」という想いを持って、海外のDCSプロジェクトに取り組んでいます。


Stage3: AIテクノロジーの活用で社会課題に向き合う

近年、拡大を続けるDHCですが、その施設においても、カーボンニュートラルの実現といった世界的な目標に向けた取り組みが求められるとともに、人口減少に伴う人手不足、エネルギーコスト上昇といった現代日本特有の社会課題に直面しています。

このようなテーマに対し、AI自動最適運転システムや、スマホによる遠隔監視など、最新DXシステムの導入試験をスタートしました。DHC施設では、24時間体制で運転員が機器管理を行う必要があり、その最適な運転のためには熟練した技能が求められます。こうした最新技術の活用により、運転の省人化やさらなる高効率化を見込むことができます。

左: 粒子群最適化(Particle Swarm Optimization、PSO)による最適運転システム。
複数の「粒子」を用いて演算し、よりよい数値を得た粒子の情報を共有し合いながら、全体としての最適解を導き出している。
右:スマホ監視画面。現在の運転の様子を遠隔からもリアルタイムに見ることができます。

ここでは、海外でのビジネス展開のフィードバックとして、「グローバルエンジニアリング」のあり方、特にこうしたデジタル技術を積極的に利活用して問題を解決する手法を得て、大阪のDHCでの導入を図っています。この取り組みからスタートし、国内のさまざまなプロジェクトへの波及を目指しています。

Designer's Voice

設計者

都市エネルギー計画部/西日本都市エネルギー計画室 室長

髙田 修

Osamu Takada

2005年からの20年間にわたり、大阪駅のエネルギー計画にライフワークとして取り組んできました。技術に立脚しながら提案を行う、いわば「コンサルタント・エンジニア」として、クライアントからの信頼を得られるよう、一つひとつの業務に常に真摯に向き合っています。
そのような取り組みの中で、学会賞の受賞や海外プロジェクトへの参画といった貴重な経験を通じて、大学の先生方や海外で活躍するエンジニアとの出会いを得ることができました。こうした出会いを糧に、新たな付加価値の創出に挑戦し続けています。
エンジニアは、携わったプロジェクトによって育てられます。三菱地所設計は、エンジニアとして日本トップレベルの経験を積むことができる、恵まれたフィールドであると確信しています。
※所属はプロジェクト担当時点

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Update : 2025.09.04

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