2025.11.28

R&D DISCUSSION Vol.59

これからの「継承設計」を考える[後編]

野村 和宣 神奈川大学教授、三菱地所設計 継承設計室 顧問

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トップ画像:[写真1]日本工業倶楽部会館・2階大会堂

Q : その後のプロジェクトについて、また現在、大学ではどのような研究をされているのか、伺えますか?

A :歌舞伎座のプロジェクトの後、これらの手法を書籍「生まれ変わる歴史的建造物――都市再生の中で価値ある歴史的建造物を継承する手法――」(日刊工業新聞社、2014年)にまとめ、さらに建築保存活用分野の専門家になろうと、博士論文を執筆して学位を取りました。また、その後に手がけた「旧名古屋銀行本店ビル (THE CONDER HOUSE 1926)」の保存改修では、銀行からウエディング施設への用途変更、「慶應義塾大学 旧図書館」(重要文化財)の耐震改修では、組積煉瓦造を傷めることなく耐震性を向上することに挑みました。さらに、有志により10年間活動を続けてきた「古図面研究会」の成果も「丸の内建築図集1890−1973」(新建築社、2020年)として出版しました[スライド1]。

今は、三菱地所・三菱地所設計が所有する建築アーカイブスを活用して、各時代の丸の内の建築をメタバース(仮想空間)で蘇らせる「4D MARUNOUCHI」に取り組んでいます[スライド2]。まずは「丸ビル」から取りかかり、旧「丸ノ内ビルヂング」の竣工時(1923年)、関東大震災からの復興後、現「丸の内ビルディング」の3世代を体験できる3Dモデルをオンラインゲーム「Fortnite」上に公開しました。旧丸ビルの外観と1階の十字アーケードを、その3つの時代を比較しながら自由に歩き回ることができます。今後はこれを丸の内全体に広げていこうと思っています。130年分の資料根拠に基づいて、各年の建築を再現できる。そういうプラットフォームができれば、バーチャル空間で場所を貸したり、イベントを開催したりと、新たなビジネスの機会創出にもつながるでしょう。これは、130年のまちの履歴を正確に追うことができる丸の内でしかできないことです。2022年から会社員と兼務で大学教員になり、今年からは大学の専任になりましたが、研究室としても引き続き三菱地所設計と協力し、一緒にさまざまな取り組みを進めていきたいと考えています。

Q : まちや建築の価値継承において、今後どのようなことが課題になるでしょうか?

A :これからの継承設計は、時代の求めに応じて、さらに多様な価値継承の方法を模索することになると思います。今までにない新しいテーマや課題が現れてくると思いますが、私は常に、先人たちが何を考え、どう築き上げてきたのかということに思いを巡らせます。それが唯一無二の価値であり、それを次世代にどう継承するかを考えてきました。

今日も何度か話に出ましたが、新しい建築様式の価値が認められようになるのには時間がかかります。登録有形文化財の登録基準は竣工後50年なので、今、モダニズムはもちろん、1975年以前のポストモダンなども対象に入ってきているのですが、どんどん姿を消していますよね。特に東京のような大都市では、使われなくなれば解体されます。逆に、使い続けられれば残る。どの様式も、時間を重ねれば、価値が見出される瞬間は必ずやってくると思います。そのためには事業者や社会に「残そう!」と思ってもらうことが重要なのですが、これが結構ハードルが高いのです。

そんな中で昨年から始まった「東京建築祭」は、一般の方にもまちなかの建築に興味をもち、東京というまちの魅力を再発見し、愛着をもってもらうためのイベントです。私も実行委員を務めていますが、歴史的建造物だけでなく、近代や現代の建築も織り交ぜて、建築に触れあえるさまざまなイベントを企画しています。

また、今年からは三菱地所により「丸の内建築保存部材倉庫」という新しい試みもスタートしています[写真2]。これまで倉庫に眠っていた「丸ノ内ビルヂング」、「新丸ノ内ビルヂング」(1952年竣工)、「八重洲ビルヂング」(1928年竣工)、「旧三菱一号館」の保存部材を整理して、展示空間のように収蔵している施設です(三菱地所設計はアドバイザーとして運営に協力)。こういうリアルなものに触れながら、先程のようなVR技術を活用したバーチャルの世界も連携させることで、価値継承の可能性が広がっていくのではないかと思っています。

Q : 大学の研究・教育活動を通しての気づきはありますか?また、今後の展望を教えてください。

A :今在籍している神奈川大学では2022年に建築学部が誕生しました。私が教えているのは「まち再生コース」で、全国的にも数少ない、建築保存活用を体系的に学ぶカリキュラムがあります。日本の大学では建築史や都市計画は学びますが、保存活用には焦点を置いてきませんでした。キャンパスは横浜にあり、まちなかには開港都市ならではの明治・大正期の建築が数多く現存します。そこで学生に好きな「歴史的」建造物を尋ねてみたところ、平成期に入ってからの建築である「横浜ランドマークタワー」(1993年)を挙げた学生がいて驚きました。今の30、40代には、戦後のオフィスビルを挙げる人も少なくありません。やはり、「歴史」は変わっていくものであると痛感しました。

私自身が、まちの歴史に興味をもつきっかけになったのは、実は丸の内でした[スライド3]。生まれは東京調布市で、建築と旅行が好きな子どもでした。14歳の時、中学校の友達と東京の観光名所を巡る計画を立てました。東京駅から皇居の二重橋を往復した際、丸の内のオフィス街を初めて歩きました。建物の看板に目をやると、みんな「◯◯ビルヂング」であることに気づきました。なぜビル「ディ」ングではないのだろうと、面白がって写真をとっていたら、巡回中の警察官に呼び止められ補導されました(笑)。当時の日曜日の丸の内といえば、誰も歩いていないような場所でしたので、子どもが歩いているだけで怪しまれたのでしょう。それから全国のまちを歩くようになりました。歴史的な町並みはもちろん、特に山岳集落や漁村集落に興味があり、大学時代、社会人になってからも旅を続けました。日本で行っていないエリアはないですね。もちろん今も続けていて、今年の3月には、国内の有人の離島をコンプリートしました。ちなみに旅といっても、興味があるのは集落で、いわゆる名勝旧跡には全然行きません(笑)。その土地で脈々と守り継がれてきた町並み、人の営みを見たり聞いたりするのが面白いのです[写真3、4]。

今後、東京をはじめとする都市部の歴史的町並みはますます、近代、モダニズム、ポストモダンといった様式がミックスした風景になっていくと思います。そこにも、つくった人、使った人、守り継いだ人など、さまざまな人の思いが込められています。その唯一無二の価値を、どう次世代に継承するか、これからも、みなさんと一緒に考えて取り組んでいきたいと思っています。

[写真1 撮影協力:日本工業倶楽部(会員制のため、建物は一般非公開です)/スライド3点、写真2-4:野村和宣氏提供]

PROFILE

神奈川大学教授 / 三菱地所設計 継承設計室 顧問

野村 和宣

のむら かずのり

1964年東京都生まれ。博士(工学)。1988年、東京工業大学大学院修士課程修了後、三菱地所入社(設計監理部門)。丸の内再構築のマスタープランの企画設計などを担当後、2001年より三菱地所設計にて、歴史的建造物を含む数々の都市再生プロジェクトの設計に携わる。代表作に、日本工業倶楽部会館・三菱UFJ信託銀行本店ビル(2003年、日本建築学会業績賞)、三菱一号館復元計画(2009年、日本建築学会業績賞、日本建設業協会賞)、JPタワー(2012年)、GINZA KABUKIZA(2013年)など。主な著書に、「生まれ変わる歴史的建造物」(日刊工業新聞社、2014年)など。現在は、三菱地所設計 継承設計室 顧問、神奈川大学教授(2022年より)、東京建築祭実行委員会委員。


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