2026.02.03

設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート Vol.24

「『みどり』と『イノベーション』の融合」を実現する設備の取り組み

グラングリーン大阪

設備設計者が語る。環境・設備のアイデアノート TOP

(メイン写真:アイフォト/伊藤 彰)

はじめに

「グラングリーン大阪」は、大阪駅北地区の再開発によって誕生した、都市と自然の調和を目指した新しいまちです。約9haの敷地には広大な都市公園と一体になるように、複合施設や文化施設、大屋根広場などが展開しています。当社が建築設計に携わった「南館」は、商業施設やオフィス、ホテル、MICE機能などが集約された、JR大阪駅を眼前に擁する建築です。ここでは、各社の技術とノウハウを結集し、持続可能で、安心して暮らすことのできる都市空間の創出を実現しています。

今回は、その環境配慮技術や、大規模災害に向けた取り組みについて解説します。

都市と自然が調和する『グラングリーン大阪』南館の全景。広大な都市公園と複合施設が一体となり、持続可能なまちづくりを実現しています。(撮影:アイフォト/伊藤 彰)

エリア全体におけるエネルギーマネジメント

「グラングリーン大阪」では、再開発に合わせて多くの環境配慮技術を導入しています。特に、冷暖房にかかるエネルギーを大きく左右する熱源設備には、地域冷暖房や個別熱源といった、異なる特性を持つ複数のシステムを導入。これらを効率よく運用することで再開発エリア全体での環境負荷の低減を図り、事業全体のコンセプトである「『みどり』と『イノベーション』の融合」に取り組んでいます。

主な熱源には高効率な地域冷暖房を採用し、「南館」・「北館」それぞれの地下に熱供給プラントを新設しました。両プラントは、公園の地下に埋設された熱融通導管でつながっており、また周辺施設内に設置されている既存プラントからも熱融通を行うことができるため、エリア全体での高効率なエネルギー利用を可能としています。

そのほかにも、個別熱源の帯水層蓄熱システム、コージェネレーションシステム(CGS)、バイオガス発電システムといった先進的な設備を導入しています。個々のシステムが消費エネルギーやCO₂排出量を抑え、季節や時間帯に応じて最適な機器を運転することで、更なる省エネルギー・省CO₂を実現できる仕組みとしています。

南館のエネルギー連携と環境配慮技術(当社担当範囲のみ抜粋)

梅田の地質を活かした季節をまたぐ熱循環

「グラングリーン大阪」では、この梅田地域ならではの豊富な地下水を活用する手法として、帯水層蓄熱システムを広大な敷地に導入しています。帯水層蓄熱とは、地下4050m付近にある水を多く含む「帯水層」の地下水を蓄熱媒体として活用するシステムで、大規模帯水層蓄熱システムはグラングリーン大阪街区が日本で初めての導入事例となります。

建物内の熱源機器(ヒートポンプ)は冷房運転すると温排熱が発生します。通常は冷却塔等で大気に放出しますが、このシステムでは、この熱を帯水層に蓄え、冬季の暖房熱源として利用します。同様に、冬季の暖房時に生じる冷排熱も帯水層に蓄え、翌年の夏季に冷房熱源として利用します。このように帯水層を「自然の蓄熱槽」として活用することで、季節をまたいだ熱の循環が可能となり、年間を通じて効率的な冷暖房運転ができるとともに、大気への放熱量を抑えてヒートアイランド現象の抑制にも貢献します。

梅田地域の地下水を活用した帯水層蓄熱システム概念図

導入に際しては、効率的に熱を蓄えることができるように、ヒートポンプから帯水層へと掘り下げられた井戸の配置や離隔距離の検討・計画を行いました。帯水層蓄熱システムは、温排熱を蓄える温熱井と冷排熱を蓄える冷熱井の2本の井戸で構成されますが、井戸同士の距離が近すぎると、双方で蓄えた熱が混ざり合ってしまい効率的な運用ができません。適切な井戸の離隔距離は、夏季と冬季の間にどれだけ熱を蓄え、熱源として使うかによって変わります。そのため、季節ごとの熱源運用をシミュレーションし、機能上適正な距離を把握しながら、外構計画と整合する適切な配置を検討しました。

南館における帯水層蓄熱システムの井戸配置

廃棄物からのエネルギーで、廃棄物をその場で処理

「南館」では、商業施設や2つのホテルレストラン等の厨房を有するという大規模施設ならではの特性を活かし、日々安定的に発生する生ごみや排水を建物内で処理するシステムを構築しています。

このシステムの中核を担うのが、バイオガス発電です。生ごみや厨房排水除外汚泥を施設内で処理して消失させ、その過程で生成されるメタンガスを活用し、電気と熱を生み出します。さらに、その電気と熱を廃棄物処理システムのエネルギー源として再利用することで、処理に要するエネルギーを削減しています。

本システムを導入することで、廃棄物を外部施設へ移送する必要がなくなり、運搬に伴うCO₂排出も抑制され、環境負荷のさらなる低減に貢献しています。

導入にあたり、計画段階から事業者とともに施設の運用開始後に発生する生ごみや排水の量を予測し、システムの適正規模についての議論を重ねて最適なシステム設計を行いました。

処理エネルギーを自給自足する廃棄物処理システムの概念図。
廃棄物から発生するバイオガスを利用し、廃棄物処理のエネルギー源としています
施設内に設置されたメタン発酵槽(撮影:伸和)

大阪都心に新たな安心・安全の拠点を生み出す

大阪の都市経済の一角をなす大規模複合ビルである「南館」は、災害時にも設備を稼働させてオフィスの事業継続性を担保することだけでなく、大阪駅前に建つ大規模施設として、帰宅困難者への対応も重要な役割です。

まず、自然災害にも強い建物を構築するにあたり、水害対策として重要設備室の配置に配慮した建築計画としています。特高電気室や通信機械室、発電機室、CGS室、防災センターといった重要書室を2階以上の階に設けて浸水による機能停止を防止。さらに、地上部には防潮板やコンクリートの立ち上がりを設け、建物内への水の侵入を可能な限り防ぎます。

また、停電時の電源供給については、オイル専焼の非常用発電機2台とガスを燃料とした常用発電機2台(CGS)を設け、停電時も照明の一部やエレベーター、給水ポンプといった建物基幹設備を稼働させビル共用部やホテル共用部の一部利用ができるほか、オフィス専有部にもテナント要望に合わせて空調や照明・コンセントへの電源供給を行えるように設計しています。これらは、停電時もオイルのみで3日間以上の稼働が可能であり、ガス供給が途絶しなければ常に電源供給することができます。

災害時にも安心・安全を支える非常用発電機設備(撮影:伸和)

帰宅困難者への対応として、防災備蓄倉庫の設置に加え、停電時でも発電機から電源を供給して照明・コンセント・空調が使える一時滞在スペースを整備しています。また、地下に緊急排水槽を設けているため、一時滞在スペース近傍のトイレは下水途絶時にも利用することができます。トイレ洗浄用の水源としては、地下ピットの雑用水を使用し、不足する場合は蓄熱槽内の水を活用することもできるように配慮しています。
コージェネレーションシステムや蓄熱槽は、平常時は効率的な熱源運転やピークカットに貢献し、非常時には帰宅困難者サポートとしても貢献する、複合的効果を持たせる計画としました。

さらに、「うめきた公園 サウスパーク」にも電源融通できるように計画しており、南館だけでなく、うめきたエリア全体の事業継続性を高めることに貢献しています。


幅広い取り組みで国際的な高評価を取得

まちづくりの思想に沿って、敷地の特性を活かした環境負荷低減手法や資源循環の仕組み、都市全体の防災力の強化に向けた各種の施策を導入した「グラングリーン大阪」は、環境性能やサステナビリティの面で高く評価され、「ZEB Oriented(事務所部分)」や「CASBEE Sランク」などの認証のほか、環境性能やサステナビリティの面で高く評価され、下記のような認証を得ています。

取得認証一覧

認証名認証概要ランク
LEED-NDプラン認証
【米国グリーンビルディング協会】
街区全体の持続可能性を評価する国際的な環境認証制度GOLD評価取得
SITES予備認証
【米グリーン・ビジネス・サーティフィケーション社】
屋外空間のサステナビリティとレジリエンスに関する評価認証GOLD評価取得
DBJ Green Building認証
【日本政策投資銀行】
環境・社会への配慮がなされた不動産の評価認証取得
ABINC ADVANCE認証
【一般社団法人いきもの共生事業推進協議会】
大規模開発を対象とした生物多様性配慮の認証取得

Designer's Voice

設計者

機械設備設計部 / 2012年入社

伊藤 光太郎

Koutaro Itou

本計画はJR大阪駅の目の前に都市公園と一体となったまちをつくるという壮大なプロジェクトで、設計監理者として携われたことを光栄に思います。この場をお借りして関係者の皆様に御礼申し上げます。設備設計としては既存の技術と新しい技術を融合させて一つの建物として運用ができるシステムを目指しました。梅田の地下水を活用した帯水層蓄熱や広大な街区を結ぶ地域冷暖房など、敷地の特性を活かした設備が組み込まれ、グラングリーン大阪ならではの環境配慮の形となっています。
※所属はプロジェクト担当時点

設計者

関西支店 / 2017年入社

飯田 真大

Masahiro Iida

本プロジェクトには現場段階から担当しましたので、コンペから脈々と続いた設計思想を引き継ぐよう設計監理を行っていきました。設計図から現場での設備として具体化していくために事業者、施工者、関係各社を含めて様々な立場の方々と調整を続けましたので、竣工を迎えた際には非常に達成感があり思い出深い物件です。商業、ホテル、温浴と様々な施設が入っていますのでぜひ一度お立ち寄りいただき楽しんでいただければと思います。
※所属はプロジェクト担当時点

(撮影:アイフォト/伊藤 彰)

Data

物件名

グラングリーン大阪 南館

竣工年

2024年11

所在地

大阪府大阪市北区大深町554

敷地面積

約25,262㎡

延床面積

約277,853㎡

階数

地上39階、地下3階、塔屋1階

構造

鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造

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Update : 2026.02.03

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