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連載|ものづくりの視点

電気から建築へ

深澤 義和

昭和25年の建築士法制定時に、建築士の受験資格を電気学科、機械学科出身者に与えないこととした。その理由を問われ、提案者の田中角栄衆議院議員は、「議論の余地があるが、建設工学的な面で、電気、機械、衛生等の学科まで、土木、建築と同日に論ずることに疑問がある」と回答している。これは、おそらく建築における電気、機械などの設備の存在が今ほど大きくなく、専門領域としての世界が違うなどの認識に基づいていたのであろう。確かに、その当時の電気設備は照明が主体であり、まれに昇降機がある程度であった。それに比べ現在では、電気設備や空調設備のために建物があるのではないか、と皮肉を言いたくなるほど存在感を持っている。

実際、建築における電気設備は大変な規模を誇る。大型施設では、高圧で大容量の受電から始まる。その電力を降圧し、安定化させ、建物のあちこちに配り、使いやすく、安全で、効率の良い給電をする。これは、ちょっとした変電所である。場合によれば、建物内に発電装置を入れ、停電に備えたり、電気の供給安定化を図る。こうなれば発電所である。配られた電力は、照明はもとより、空調設備や昇降機の動力となって、建物に生命を吹き込む。当然ながら、性能の良い電気機器を選別し、場合によっては製品開発も行う。また、電気を使うときには、スイッチをはじめとして、使い勝手の良い、調整する装置が必要であり、使用量を監視し、コントロールする仕組みも必要となる。さらに最近では、情報系が建物内にはりめぐらされ、膨大な情報を間違いなく伝達し、有効に利用することも電気設備の一環である。

一方で、昭和25年当時と変わらず、あるいはさらに専門分化が進んで、電気の世界は、建築の世界とかけ離れているようにも見える。しかし、電気の世界の驚異は、建築と無関係ではなく、建築の世界に刺激を与えるようなものであろう。筆者は電気について素人であるが、それでも小学校以来知った、電気の知識や電気工作は、電気に対する不思議さの経験として残っている。たとえば、交流という周期変動する電気の流れの仕組み、変圧器の中で磁力を介して電圧を変換すること、モーターという電気を力に変えたり、逆に力から電力を生み出す発電の仕組みなど、あるいは真空管や半導体のように正負の片側のみ増幅したり、通過させないことなどである。これらの原理や、もっと進んだ最新の電気の知恵は、ひょっとすると建築の構造をはじめとする建物の仕組みに飛躍的な変化を与えるかも知れない。そうなら、電気の原理を身につけた技術者が、建築の構造や計画に加わることがますます意義深いこととなろう。

今、建設分野、なかんずく設計部門に電気設備担当の新人技術者を迎え入れることが容易でない。建築専門学科の中で、建築電気設備を指向するものを育てるところは少ない。しかし、電気学科は工学の一大分野であるから、人材は豊富のはずである。建築士の資格要件の課題はあるが、建築の電気設備分野が有意義で、重要な世界であることを理解して、有能な若者が電気の世界から建築の世界に参加することを期待する。

電気から建築へ