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連載|ものづくりの視点

人の集まるまちづくり

河合 康之

先日、大学時代の恩師による、日本の近現代の国づくりの歴史や未来のプロジェクトに関する講演を聞く機会があった。これまでの国づくりは、戦後、①衣食住に関わるものから出発し、②人・国土の安全性、③効率性、④快適性、⑤地域の魅力向上へとシフトしてきた。しかし、現在の成熟した日本においても、これら5つのどの視点から見ても、まだ相応しい国土・まちにはなり得てはいないというものであった。講演を聞き、日本は人口減少時代を迎え、その将来に立ちつくしている状況にあるが、そんな中でも、まだやるべきことがあるというメッセージと私は受け止めた。

日本経済の力強さが本物であるかどうかの議論はさておき、今、明るい話題や活力あふれる動きが様々な場所で出始めている。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた都市観光・都市セールスの気運の盛り上がりを始めとして、北陸新幹線の東京-金沢間の開業による沿線各地域でのイベント開催や外国人観光客の増加によるインバウンド需要の拡大、ホテル稼働率の向上など、明るいニュースが報じられるようになったのは喜ばしいことである。

いつの時代でも、国土・まちづくりは「人」をベースにしたもので、「人が集まること」、また「人を集めるにはどうするか」、「人が快適に生活するにはどうした施策が必要なのか」という観点から推進されてきた。人口減少、超高齢化社会への対応として、今後は拡大した市街地を効率的かつ快適で、地域の歴史や個性を活かしながら、環境・景観的にも豊かに集約していくことが必要になってくる。

都市計画においては、戦後の国土開発・人口増加・都市機能の拡大に合わせた都市計画区域・市街化区域の拡大、膨張が終焉を迎え、人口減少、空家、限界集落問題への対応のため、多極ネットワーク型コンパクトシティ形成を目指した、立地適正化計画制度を活用したまちづくりへと誘導する方向となった。

では、どのように集約型都市構造のまちづくりを目指すのかという点では、それぞれの都道府県・市町村のこれまでの都市形成の歴史もあり、様々なパターンがあるだろう。たとえば国土交通省の資料では、以下のような事例が挙げられている。①多極ネットワーク型(島根県、合併前の旧町村中心部を地域拠点として、中核拠点とネットワークで結ぶまちづくり)、②串と団子型(富山市、徒歩圏を団子とし、一定水準以上のサービスレベルの公共交通を串として団子をつなぐような、公共交通を軸としたまちづくり)、③あじさい型(岩手県北上市、交通結節点であり多くの拠点機能の整っている都市の核と、都市内の各地域(生活圏)が連携したまちづくり)などが地方都市の目指すべき都市構造のイメージとされている。そして、単にどのような都市構造となるかではなく、「このまちは良いね」、「また来たい」、「住みたい」と人を惹きつける魅力あるまちづくりが必要となっている。住民や観光客としてまちをブラブラしたり、美味しいものを食べたり、ショッピングしたり、治療に来たり、風光明媚な景観を堪能したり、目的は様々である。そういった多様なニーズに応えるためには都市計画だけでなく、人を吸引する力をもった都市施設・民間施設との融合が必要である。こうした継続したまちづくりを達成するためには、民間施設の立地や投資を誘導する手法・制度の創出も期待したい。

そして私たちもこれからの日本に相応しい国土・まちづくりのためにその一端を担う組織として、制度づくりなどの川上から、実際のプロジェクトで大局を見ながら意識的に仕事に取り組んでいきたいと思う。良質で効果的なインフラ・ストックの拡充、有効活用はもとより、生活関連社会資本の充実による人の集まるまちづくりが重要であることは言うまでもない。

人の集まるまちづくり