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連載|ものづくりの視点
3.11に想う
矢崎 勝彦
2011年3月11日、私は東京のオフィスで立っていられないほどの大きな揺れを感じ、これは尋常ではないと思った。その後、被害の状況が報道されるたびに大きな衝撃を受けたことは今だに忘れない。そしてそのわずか十数年前に阪神・淡路大震災が発生したという事実は、大災害は数百年単位で、いやそれ以上の間隔で起きるものだと漠然と思っていただけに、非常にショックであった。ここ一、二年間だけでも広島の土砂災害、鬼怒川堤防の決壊など大きな自然災害が発生している。多くの方が亡くなり、生活基盤が破壊され、経済的にも社会的にも被害は甚大なものになっている。
日本は自然災害が多い国と言われている。国土面積は世界の0.3%弱であるが、災害による被害額では約18%を占めている。(平成26年版防災白書)これは台風や火山活動、地震、急峻な地形など日本の気象、地理的特徴のほかに、沖積平野に街が発展し、そこに人口が集積し、資産が形成されてきた歴史的・社会的条件も要因となっている。
その昔は災害が起こりやすい場所には住まない、また地名にその意味を込めて、災害の恐ろしさを後世に伝えてきた。そこには生活の知恵があった。科学技術が発達してからは、災害をある程度制御できるようになり、都市化とともに居住エリアや経済活動エリアを広げていった。そして災害を受けながらも、そこから得た知識をもとに、より強固な街をめざして復興・発展を成し遂げてきた。おかげで我々は安全で安心な生活が送れるようになったと思っていた。
しかし、その後も都市は高密度、大規模、高層、地下化が進行し続けている。現代の都市は複合的なシステムであり、情報、エネルギー、物流がそれを動かし、さらにコンピューターで制御され効率的に運用されている。安全性も格段と高まっているが、そのことが当たり前と思い、我々の災害に対する意識が薄まり、リスクが潜在化している。こうして必然的に街も人も災害に対する耐性が弱くなっている。
今後も災害に対する研究が進み、例えば地震研究では歴史資料などの社会科学からのアプローチが工学分野にも活かされ基準が整備、更新されていく。また、より広い海域調査や最新のコンピューター技術を用いた大量の被害データ解析などが進められ、今まで知り得なかったメカニズムが解明されていく。災害危険度や想定被害を数値や図で表したハザードマップや災害発生率などの災害情報も整備され、多種多様なメディアを通して提供されていく。しかし、情報が分かりやすくなればなるほど、安易にそれを信じてしまう危険性は高くなる。
自然現象は複雑である。変動幅も大きい。そもそも解明されていないことも多く、現実に想定外のことが起こっている。ある仮定条件下で数値、基準がつくられているという背景を理解しなければならない。
また、現在は単に基準を満たし強固な構造物をつくることだけでは安全な街をつくれないことは過去の経験からも明らかであるが、次の大災害がいつどこで発生するかは誰にもわからない。経済がグローバル化した今、都市が機能不全に陥ると、たとえ短時間であってもその影響は計り知れない。街は人、もの、情報によって動き、機能していることを認識しなければならない。
今年の3月で26兆円規模で進めてられていた東日本大震災集中復興期間が終わり、次のステージに入る。この5年間で一定の成果はあったものの、いまだに道半ばのものもある。災害からの復興には費用だけでなく莫大な時間がかかる。既に人口減少時代に入った。自然と謙虚に向かい合いながら、今までの経験にとらわれずこれからの街づくりに求められるものが何かを常に考え続けていきたい。