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連載|ものづくりの視点

設計事務所とコンストラクションマネジメント(CM)

田中 宣彰

本州最東端の街であり、三陸海岸の絶景である浄土ヶ浜や、「目黒のさんま祭り」にサンマを供給している優良な漁港を持つ街、岩手県宮古市。この街も2011年3月11日に津波に襲われました。市庁舎屋上に設置されたカメラが捉えた、堤防を越えた真っ黒い海水が街をのみこむ映像を忘れることはできません。

現在、宮古市では震災後6年目を復興後の「発展期」と位置付け、震災以前よりも活力があり、魅力あふれる街として発展するための、さまざまな取り組みがなされています。その一つに、宮古駅のある中心市街地で、2018年7月の竣工を目指している新庁舎建設があります。このプロジェクト「宮古市中心市街地拠点施設建設管理支援業務」に、㈱三菱地所設計がコンストラクションマネジメント(CM)会社として、参画しています。「設計事務所がCM?」と思われる方も多いかもしれませんが、弊社は古くから監修という名でCM業務を行ってきました。さらに三菱地所㈱設計監理事業本部であった2000年からCM室を立ち上げ現在は㈱三菱地所設計CM部として業務に当たっています。当初のコストマネジメント中心から、現在はプロジェクト全体にわたり、多様な業務メニューを持ち、発注者を支援しています。

CMとは「発注者の補助者・代行者であるCMr(コンストラクション・マネジャー)が、技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って、設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や工事発注方式の検討、工程管理、品質管理、コスト管理などの各種のマネジメント業務の全部または一部を行うもの」とされています。(※)

「そんなこと設計監理業務の中でやっている」と思われる設計事務所の方も多いでしょう。私はCMを説明する時に「日本におけるCMとは、建設プロジェクトで、発注者業務の一部と設計者が担ってきたマネジメントの業務を合わせて職能として確立したもの」と説明をしています。CM黎明期に第三者性が強調されたためかもしれませんが、現在、幅広い業務範囲に発展したCMに対する理解不足があり、CMとの間に「壁」を作っている設計事務所もまだ多いのではないでしょうか。

宮古市だけでなく、東北の震災復興の多くの建設工事にCM方式が採用されました。CMのもつ柔軟な役割が、震災復興という非常事態に再認識されたことが一つの理由と考えています。東北以外の公共事業においてもCMの採用により建設プロジェクトを運営する自治体も増加しています。2016年度には国土交通省により「地方公共団体等におけるCM方式活用事例集」が作成され、官民問わず、多くの先進的事例が示されています。

また2014年の「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(品確法」の改正により、「多様な発注方式」が可能となりました。象徴的な出来事が国立競技場です。白紙撤回から再公募が行われ、プロポーザルで隈研吾+梓設計+大成建設JVが選定され、現在、建築工事が進んでいることからわかるように、従来の設計施工分離方式以外の、発注方式が実行されています。

民間では従来、自由な「発注方式」が行われてきました。さらに公共でも採用されるようになった、実施設計からのDBや、ECI方式、第三者監理の採用などの「多様な発注方式」が、今度は逆に民間に影響を与えているように思います。設計施工分離方式か、一括方式かといった単純な選択ではなく、実力のある多くの人・組織を建築プロジェクトに参画させ、より良い品質を適性価格で求める発注者が増えています。建築の「つくりかた」が多様化するが故に、より高度なマネジメントが求められているのです。

設計事務所が建築界のリーダーとして今後も発展するためには、このような状況をチャンスととらえ、設計監理業務とCM業務の「壁」を取り去り、ノウハウを統合し発展させ、建設プロジェクト全体をマネジメントできる組織への変革が求められています。

(※)国土交通省の「CM方式活用ガイドライン」(2002年)

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