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連載|古図面の旅

第18回 三菱合資会社銀行部本店(大正11年)[桜井小太郎・古典様式を攻める]

東海林 孝男

三菱合資会社銀行部本店(大正11年竣工)は桜井小太郎の設計で、三菱一号館と大名小路を挟んだ位置(現在の三菱UFJ 銀行本店のある場所)に建てられたSRC造地上4階建ての建物である。この建物の特筆すべき点はまずその外観で、これまでの三菱ナンバービルシリーズのイギリス系赤煉瓦スタイルとは打って変わって、コンクリートでギリシャやローマの神殿のような古典様式(藤森照信氏の言葉を借りると「ネオ・グリークリヴァイヴァル様式」)とした建物である。このスタイルは、当時銀行や保険会社で好んで使われたスタイルで、この三菱銀行もそうした流れの初期の例である。また、軒の高さは三菱一号館と揃えており、デザイン様式が変わっても周辺建物との連続性を意識するという、今の三菱地所設計にまで引き継がれるマインドで当時から設計を行っていたことが分かる。

図面の中で目を奪われるのは「窓」の図面。サッシの細かな機構まで詳細に表現された図面がたくさん出てくる。今回の「窓」で特徴的なのは営業室の上部に設置された大きな切妻のガラスのトップライト。このトップライトにより、お客さんが来る営業室には、たくさんの光が差し込む建物となっている。あれ? 図面を見ていくと竣工してわずか4年後の大正15年、この美しいトップライトを覆うように、杉丸太の根太に波形鉄板という残念な仕様の屋根をつくるという大規模改造図面が・・・。しかもこんなに短期間で改造するなんて、きっとこれは雨が漏ったのか。ちょっと設計攻めすぎたか・・・。

新丸ビル検討案

上左:三菱合資会社銀行部本店と三菱一号館の写真
上中:営業室の写真
上右:第壱階(平面図)
下左:営業室上部には大きなガラストップライト:三菱銀行営業室上明取硝子屋根詳細図
下右:ガラストップライトの残念な改造の図:三菱銀行本店(改造工事)上屋之図

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