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連載|古図面の旅

第19回 三菱壱号館付属倉庫(東九号館西別館)[戦前における究極のリノベーション]

須藤 啓

今回は1906年(明治39年)、旧三菱一号館(1894年(明治27年)竣工)の裏側に(中仲通りに面し)ひっそりと建てられた第壱号館付属倉庫。当時はまだ中央停車場(東京駅)もなく通勤は市電か人力車だったため、用途はなんと人力車置場(1階)と車夫溜り(2階)であった。煉瓦造2階建ての建坪181坪、瓦屋根、平面は縦割長屋形式で、区画ごとに階段が敷設されている。図面には保岡勝也の印がある。この建築は1967年(昭和42年)に取り壊されるまでの約60年間、2度の大かがりな増築、改修を経て最後は事務所として使い続けられた。

最初のリノベーションは1913年(大正2年)で、一層分増築され3階建て(274坪に増築)となった。煉瓦造の上に、鉄筋コンクリート造の躯体をしれーっと載せる増築方法だ。煉瓦と鉄筋コンクリートとの接合部ディテールが鐵筋床梁配置図として残されている。最近では東京駅丸の内駅舎3階部分にSRC造を増築するという事例はあるが、それより100年以上も前のこと。当時の技術者の発想と技術力には驚かされる。

2度目のリノベーションは1936年(昭和11年)頃で、事務所に改修された。縦割長屋形式だった平面が、中央部への共用階段の新設、煉瓦のテナント間仕切壁に開口が設けられることで、1フロア貸しや1棟貨しなどに対応できる仕様になった。また、これまで中仲通り側の1階には一切出入り口がなかったが、大きな開口を開ける改修が行われ、事務所エントランスおよび自動車車庫が設置された。そして、これまで倉庫然とした煉瓦積みの特徴のないファサードだったのに対し、窓枠や腰部タイル張り、エントランス造作などのお化粧が施され、ゼセション風の事務所建築に生まれ変わった。

このように時代の変化に合わせ用途やファサードを変えることで60年以上生き続けた三菱壱号館付属倉庫は、戦前における究極のリノベーション建築といっても過言ではないだろう。先人の知恵、精神を引き継ぎ、さらに発展させていきたい。

三菱壱号館付属倉庫(東九号館西別館)

上左:第壱号館付属倉庫新築図面 道路西建図・表西建図
上右:第壱号館裏本社倉庫建築増設計図 第貮号 西側建図、南側建図
下左:第壱号館裏本社倉庫参階鐵筋床梁配置図 其の二
下右:東九号館改造工事 立面図

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昭和6年頃の様子

昭和6年頃の様子