株式会社三菱地所設計(所在地:東京都千代⽥区、代表取締役社⻑:谷澤淳一)は、イタリア・ベネチアのジャルディーニ・マリナレッサ庭園に2023年5月20日よりテンポラリーな茶室であり同時に家具であるパビリオン「ベネチ庵」を展示中です。これは2023年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展における「TIME SPACE EXPERIENCE」(主催:European Cultural Center)にて発表しているものです。
資源の循環と地域性への応答
「ベネチ庵」は、今日世界的に注目される「サーキュラー・エコノミー」(『循環経済』:ストックを有効活用し、新たな価値を生む経済活動)の建築設計事務所における実践・実証の試みとして、イタリアの食品性廃棄物(パスタ、コーヒーかす、ワインのコルク栓)と循環性ある資源(再生紙)を建築材料として利用した茶室です。資源に加え、設置される場所の地域特性として、現地の緯度を設計に取り入れ、世界各地で展開可能な普遍性と固有性を体現するものとしています。
会期終了後にはさらなるアップサイクルとして、本パビリオンはパーツに解体され、さまざまに造形可能な家具として再構成・再流通させることを予定しています。
「ベネチ庵」の建築的特徴について
1.展示会場の緯度から形態を生成する
展示会場となるベネチアの緯度(45度)に着目。日射をパビリオン内に適切に導入/遮蔽するため、この角度を基調としたフレーム構成としています。フレームは、ミウラ折りを線材化して積層したもので、構造の要となるジョイントパーツは、力をスムースに流すため曲線的なデザインとしています。これは三菱地所設計にてR&Dの一環として研究が行われていた継手技術を展開したものです。
本パビリオンのシステムは、35度(東京)、1度(シンガポール)など、設置場所の緯度に合わせたデザインを展開することで、それぞれの地域性へと回答します。
ジョイントは8方向に伸び、軸材に差し込まれます。
会期中(5~11月)の日射量において、「ベネチ庵」のフレームは内部へ届く日射の半分程度を遮ることができます。
2.「サーキュラーなパビリオン」を実現する技術
①食品廃棄物の部材化:ジョイントパーツには、展示地域で生じる食品廃棄物を加熱・圧縮して加工した「フードコンクリート」を使用。今回はイタリアで廃棄量の多いパスタとコーヒーかすを用い、地域課題に応えています。
②軽量化による輸送時CO2削減:軽量化のため半永久的にリサイクル可能な紙とコルクも併用。設計者がスーツケース(120Lケース×7台分)で部材を運搬することが可能。
③自然に還元する耐水処理:水に弱い素材を屋外展示すべく、各素材の物性を調べ、自然界に存在するケイ素を原料とした超越液を部材ごとに調合し塗布。各パーツの水酸基を化学反応で結合させることで耐水加工を実施しました。
一般的に屋外で用いられる建材は金属、ガラス、石、コンクリートなど地域を問わず均質的ですが、これらの技術により、地球環境に優しいさまざまな有機物を建材とする可能性を追求しています。
3.庭園とアプローチ
ジャルディーニ・マリナレッサ庭園には、期間中、「ベネチ庵」のほかにも複数のアート、パビリオンが設置されます。「ベネチ庵」は茶室として、庭園内のアプローチや他の展示物を重要な露地(茶室に付属する庭)の要素と見立て、配置しています。
4.展示期間終了後の展開
約半年間の展示期間終了後、「ベネチ庵」は各パーツに解体されます。所有希望者は、オンライン上で自分がほしい形状をつくり、NFT化した組み立て図とセットで部材を提供する予定です。この際、3Dデータも提供し、3DプリンタやNC加工機を用いてパーツを作成、拡張することも可能。
家具化を前提に設計が進められた「ベネチ庵」は、家具部材により形成された茶室とも言えます。
スペシャルコメント
展示にあたり、建築家・西澤徹夫氏よりコメントをいただきました。
僕たちはさまざまな技術を用いて、とても複雑で機械のような建築や都市や社会を日々つくっている。一方でそのような技術は、人間の身体の機能や世界を感知する感覚を拡張してきた、とも言える。技術は、環境を変えてしまうこともできるし、僕たち自身をも変えてしまうこともある。小さな茶室「ベネチ庵」に集約された技術の数々は、それをつくり出すための緻密な手段であると同時に、地球の大きさや、その地球を移動することの今日的な意味や、文明を維持することの地球規模の代償、といった、僕たちの想像力をとても大きく広げて刺激していく力を、正しく持っている。そのような思索にふけることこそが、庵の機能なのだとでも言うように。
展示概要
ベネチ庵(VENATI-AN/TIME SPACE EXISTENCE)
展示期間 | 2023年5月20日〜11月26日 |
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会場 | ベネチア、ジャルディーニ・マリナレッサ庭園 (Riva dei Sette Martiri, 1364, 30122 Venezia VE, Italy) |
設計・施工 | 藤 貴彰(三菱地所設計・tyfa/Takaaki Fuji + Yuko Fuji Architecture) 稲毛 洋也(三菱地所設計) De Yuan Kang/カン・デユェン(三菱地所設計アジア) |
制作協力 | 町⽥ 紘太(fabula)…食品廃棄物部材製造 室島 満(室島精工)…食品廃棄物部材用金型制作 日本化工機材…紙廃棄物紙管製造 大出 治(シリカジェン)…超越液防水調合 中野 秀治(IWS)…コルク床材製造 |
茶の湯 | 松村 宗亮(無茶苦茶) |
写真・映像 | 横山 祥平, Yuta Sawamura |
Special Thanks | YAU(有楽町アートアーバニズム)、Joseph Canouil/ジョセフ・キャヌイ(三菱地所設計) |
主 催 | European Cultural Center Venice Biennial “TIME SPACE EXISTENCE” 2023 |
WEB | timespaceexistence.com |
主要用途 | パビリオン、茶室 |
寸 法 | 1,700×1,700×1,700mm |
構 造 | ミウラ折りフレーム積層構造 |
材 料 | 廃棄物(パスタ、コーヒー、コルク、紙) |
設計者プロフィール
藤 貴彰(ふじ たかあき)
三菱地所設計 チーフアーキテクト/tyfa代表/明治大学兼任講師
主な作品に、「臺北南山廣場」(台北)、「出窓の塔居」(東京)、「めぐる間」など。環境シミュレーションやサーキュラー素材による周辺・地球環境への配慮を形態的に具現化するデザインアプローチに長ける。
「出窓の塔居」にて、日本建築設計学会賞大賞、日本建築学会作品選集新人賞、グッドデザイン賞、日本インテリアデザイナー協会JIDアワード、Architecture Master Prize Winnerほか、「臺北南山廣場」にて、CTBUH Award of Excellence他、国内外の建築賞を受賞。
稲毛 洋也(いなげ ひろや)
三菱地所設計 アーキテクト
BIM、ZEB、GIS、デジタルアーカイブ等に関する開発などを行う。環境シミュレーションやコンピュテーショナルデザインを通じ、人間のアクティビティや快適性、都市環境に基づくデータドリブンな設計アプローチに長ける。
De Yuan Kang(カン デユェン)
三菱地所設計 アーキテクト
主な作品に、某企業海外支店の内装デザインシリーズ、「ザ・グランド・アウトレット・イースト・ジャカルタ」など。
各国のプロジェクトに携わる中、地域特性に配慮した、多様な文化や国際的な要素が織りなす魅力を引き出すデザインアプローチに長ける。
ギャラリー
上右:庭園内の通路を露地と見立てた展示。奥にベネチアの湾を臨みます。
下:パビリオン全景。角度によって複雑に疎密感が移ろいます。
以上