DISCUSSION

Vol.11

小堀哲夫 建築家
イノベーションを起こすワークプレイス
――― 環境が変われば、働き方が変わる[後編]

2019/7/29

Qどのようにプロジェクトを進めているのですが?

A : 2017年、福井県福井市に完成した「NICCA INNOVATION CENTER」のプロジェクトでは、クライアントが先行して取り組んでいた「働き方改革」のためのワークショップが、設計とは別に企画されていました。同志社女子大学の上田信行先生がファシリテーターを務めていたのですが、初回にお邪魔してみたら、社員のみなさんから活発な意見がどんどん出てくるので、これは設計に活かせると確信し、積極的に関わりたいと思いました。上田先生は日本にワークショップという言葉がまだなかった1990年代から学びやワークショップの研究をされている学習環境デザインの専門家で、働き方について「KDKH model」という「空間(K)、道具(D)、活動(K)、人(H)」の4つの観点から考える手法で進められました。この4つはいわば四輪駆動で、働き方を変えることと環境を変えることはリンクしているという上田先生の考えに基づいています。ある人がファッションショーをやりたいと言えば、じゃあこんな舞台みたいな空間をつくろうという話になり、すると他の人がそういう空間ができるのであれば、劇をやろうと言い出す。予定調和型ではなく、常にインタラクションする関係で議論が構築されていきました。上田先生が活動と人、僕が空間と道具を担当し、働き方改革と設計がリンクして進んだことがプロジェクト成功の要になったと思います。僕たちは一品生産をしているので、ここでどのような活動をするかを使い手と一緒に考えることは非常に重要だと思います。

Q「NICCA INNOVATION CENTER」は大きな吹き抜けを持つワークプレイスだけでなく、1階がパブリックスペースになっていることも特長的ですね。

A : クライアントの日華化学は、繊維の加工に使われる薬剤や、美容室用の頭髪化粧品などを開発・製造する、界面活性技術をコアとする大手メーカーです。みなさんが着ている服のどこかには、必ず日華化学の技術が使われていると思います。約500人が働く研究棟を建て替えるプロジェクトでしたが、日本特有の大家族的な企業で、研究員同士は仲が良いのですが、一旦研究室に入ったらなかなか出てこないんですね。他のフロアの人とは会う機会がほとんどなく、知の表出化もない。そこで、まずは全部人を表に出してしまおうと考えました。吹き抜けのオフィススペース「コモン」を中心に、「実験室」と「メカニカルバルコニー」を配し、大通り(メインストリート)を巡らせ、すべての部門をつなげる。コモンは明るいし、気持ちがいいので、みんな出てくる。メインストリートに加え、裏通り(アレイ)もつくりました。これは、人間はとくに集中したい時、暗くて狭い場所にこもりやすいというROGICでの知見を活かしたものです。各フロアに8席の集中ブースを設けましたが、使用頻度は高くなっています。

日華化学はもともと大学などの研究機関と協働で開発を進めることが多かったのですが、イノベーションを起こすためには、さらなる自前主義の脱却が必要であるという考えに至り、1階は誰でも入れる「パブリックコモン」としました。そこには各部門の知を表出する引き出し式のショーケースを置いています。企業ショールームは1回つくるとなかなか更新されず陳腐化しがちなので、1部門1引き出しを割り当て、責任をもって展示することにしました。パブリックコモンと一体的につながる食堂は「バザール」と名付け、イベント会場としても使えるようにしています。

NICCA INNOVATION CENTER。豊富な井戸水を活用し、
壁や天井のコンクリートスラブを放射面として活用するTABS空調
(Thermo Active Building System)を導入している。[Photo : Takahiro Arai]

普段は社員食堂として使う「バザール」はイベントホールにもなる。[Photo : Kyoko Kataoka]

Q最近手がけられているプロジェクトについて、教えてください。

A : 今年の春、山口県下関市に完成した梅光学院大学の新校舎「The Learning Station CROSSLIGHT」は、少子化という時代の流れの中で、開学145周年を機に乗り出した経営改革とリンクするプロジェクトです。従来の座学中心の教育から、教職員から学生への一方的な伝達ではなく、教職員、学生、地域が交流する、アクティブラーニングの教育環境をつくることを目指しました。キャンパスグリッドを斜め45度に振り、廊下がないセミオープン教室が雁行しながら連続します。教職員はフリーアドレス制のワークスペースを使います。この今までにない学びの空間も、学生や教職員を交えたワークショップで導かれたものです。もっと教職員と交流したいと思っている学生は結構多く、教職員の意識がさらに積極的になるきっかけになりました。

とくに設計要件が少ないプロジェクトでは、ワークショップが有効であると感じています。案もたくさん考えなければならないし、手間もかかりますが、圧倒的に設計に重要な情報、最大公約数的な意見ではない本音や創造的なアイディアが集まるのと、圧倒的に使い手の意識が変わるんですよね。このプロセスを経てできた建物は、出来上がった瞬間から使われ始めるし、ものすごい勢いで進化するのを目の当たりにしてきていますから。

ワークショップではさまざまなコミュニケーションツールを使いますが、とくに有効なのが「知識を空間として立体化」することです。それは、僕たちの業界で言うと、図面しか書いていなかったのを模型にすると、圧倒的に事実がわかるっていうのと同じです。上田先生が開発に関わったツールで「Cube」というものがあります。みなさん今ノートにメモとっていると思いますが、そのノートを閉じてしまったら、ある人は1年に1回くらい見返すかもしれませんし、ある人は永遠に見ないかもしれない。メモをとっても5%くらいの知識吸収力ではないかと言われています。これを立体化、つまり立方体にして表に出して、まずは自分で俯瞰する。さらに隣の人とお互いのCubeを見ながら話すということをしています。この方法だと、日本人でも活発な議論が生まれやすいということが経験上わかってきました。このCubeはMITメディアラボで使っているのを見て知ったのですが、そこでやっていた「グラフィックレコーディング」と同じです。今日みたいな講演とかワークショップとかをその場で漫画にする職能で、会議を全部立体化していくんですよね。クライアントとの打ち合わせにも取り入れています。

打ち合わせやワークショップに力を入れるのは、環境を変えれば、発想も変わるし、発言も変わるということを、まずはみなさんに体験していただきたいという意図があります。その場の椅子の配置だったり、飲み物の種類だったり。例えば今、目の前にあるのがワインだったら、僕は全然違うことを話し出すと思います(笑)。要は、環境がそういう魔法というか、力を持つということをクライアントが分かってくると、もっといろんなことをチャレンジしようと思ってもらえるのです。

梅光学院大学「The Learning Station CROSSLIGHT」。1階は地域に開かれたカフェレストランと、
フリーアドレス制のワークプレイスから成る。[Photo : Takahiro Arai]

セミオープン教室を雁行しながらつなぐ動線空間から構成されるラーニングエリア。[Photo: Takahiro Arai(上2点)/梅光学院提供(下1点)]

小堀哲夫/建築家

PROFILE : こぼり・てつお/1971年岐阜県生まれ。97年法政大学大学院工学研究科建設工学専攻修士課程(陣内秀信研究室)修了後、久米設計に入社。2008年小堀哲夫建築設計事務所設立。17年「ROKI Global Innovation Center -ROGIC-」で日本建築学会賞、JIA日本建築大賞を同年にダブル受賞する。2019年に「NICCA INNOVATION CENTER」で、2度目のJIA日本建築大賞を受賞。BCS賞、AACA優秀賞など多数受賞。そのほか主な作品に「昭和学園高等学校」「南相馬市消防防災センター」、最新作に「梅光学院大学 The Learning Station CROSSLIGHT」がある。

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