DISCUSSION
Vol.24
馬場正尊 建築家
「リノベーション」を通じて見る、これからのデザインプロセス[中編]
2019/12/11
日本住宅公団(現:UR都市機構)の初期プロトタイプがそのままに残っている観月橋団地を再生したプロジェクト。
「団地フォーマットを再構築し、新しい住み手に空間を届けることがミッションだった」(馬場さん)
Q公共の物件も数多く手掛けられていますね。
A : UR都市機構と最初に手掛けたプロジェクトが「観月橋団地再生」(2012年)[写真1]です。URから、団地の4・5階の部屋がものすごく余っていると相談を受けたことがきっかけでした。そこで、伝統的な団地の田の字型プランの良さを生かしながら、全体のプランを少し整える作業をしました。内壁を塗り替えて、水回りをきれいにしたり、玄関に土間のスペースを少しつくったり。玄関の扉などは既存のものをそのまま残しました。先人がつくったプランに敬意を払いながら、それを現代的に再編集したのです。それだけで競争率は3倍になったそうです。この事例が団地そのもののリブランディングとして働き、しばらく続く団地ブームのきっかけとなりました。
並行して東京R不動産の団地版として「団地R不動産」も立ち上げたのですが、この団地R不動産史上、最も人気のあるのが「カスタマイズURプロジェクト」(2013年〜)。賃貸なのに改装がOKという団地です。一般的な原状復帰の義務がなく、借主による改装後の状態を「新しい原状」と定義し、そのまま退去OK。お客さんのお金で団地全体が勝手に更新されていく、不思議な現象です。みなさん、ものすごく上手にリノベーションするんですよ。経年劣化ならぬ、経年優化です。別の団地でも、部屋を撮影用のスタジオにリノベーションする人や、部屋の一部を自己制作している商品の店舗として利用する人などもいて、現代都市における「住居」という用途が複雑化しつつあることを感じました。そして、自分の空間を自分で編集する人々が現れる時代がやってきたことも実感しました。
このプロジェクトで生まれたのが「tool box」[写真2]。膨大なカタログからセレクトした、少し面白くてクセのある建材のeコマースです。一番人気なのはフローリングで、エンドユーザーはフローリングが買いたかったんだということに気がつきました。今でも一番売れています。このメディアは、当初は半分冗談のような気持ちで始めたんですが、今ではR不動産グループの中で一番の売り上げを誇っています。それだけ、今は自分で空間を編集して住みたい人々が大勢いるんだなあと、改めて実感しています。案外プロの方にも利用してもらっているみたいです(笑)。
[写真1]「観月橋団地再生」(京都府京都市伏見区、2012年)。
住人がいる住戸はそのままに、虫食い状に空いた部屋をバラバラの
タイミングで、ひとつずつ改修していく
[写真2]住み手が自分の空間を自分で「編集」するための道具箱となる
「tool box」https://www.r-toolbox.jp
Q最近取り組まれている「エリアリノベーション」について伺わせてください。
A : これまでずっと「点」のリノベーションをやってきましたが、ある時、それを集めると「面」のリノベーションになることに気付きました。僕は「まちづくり」という言葉があまり好きじゃないなと感じていました。言葉自体が美しすぎて、なんとなく儲けちゃいけないだとか、ボランティアの精神で取り組まなきゃいけないというような、そんなイメージがあるんです。でもそうではなくて、ちゃんと収益性もありつつエリアが変わっていく、そういう新しい概念はないのかと考えた時に「エリアリノベーション」という言葉を思いつきました。そしてそれを本にしたのが『エリアリノベーション/変化の構造とローカライズ』(共著、学芸出版社、2016年)[写真3]です。
きっかけは、2003年に始めた『CET(Central East Tokyo)』[写真4]というイベントでした。これは馬喰町や神田など、日本橋界隈のエリアで面白い空き物件を探してきて、その空きスペースを一定期間ギャラリーとして使わせてもらうことで、街の空き物件を活用したエリア全体のギャラリー化を図ったプロジェクトです。アーティストは無料で自分の作品を展示することができるし、お客さんはアート作品を観ることができると同時に、街を新しい視点で観ることができます。オーナーさんは物件をギャラリーとして使うことで付加価値が高まり、お客さんに物件を見てもらうことができて、全員が少しずつハッピーになれる関係が生まれました。このプロジェクトを8年間続けた結果、今ではCETエリアの地価はぐんと上がり、エリアブランディングされるに至っています。その時に、点の変化が連続していくうちに面の変化になる、これって都市計画とかまちづくりとそっくりだと思ったんです。
そして、エリアが変化する時には4つのキャラクターが必要だということがわかってきました。良い空きスペースを用意する「不動産キャラ」、空間をうまく設える「建築キャラ」、そして魅力的な画を生み出す「グラフィックキャラ」、最後は全体を統括し見立てを再構築する「編集キャラ」。これまではピラミッド型だった社会構造が、点の変化が面の変化を招き、それがさらにアメーバ状にネットワーク化していく、そうやってエリアが変わっていくのではないか、そしてそれが次の時代の都市計画なんじゃないか、という実感がありました[スライド1]。
[写真3]共著『エリアリノベーション/
変化の構造とローカライズ』
(学芸出版社、2016年)では、
東京都神田・日本橋(CET)、岡山市問屋町、
大阪市阿倍野・昭和町、尾道市旧市街地、
長野市善光寺門前、北九州市小倉・魚町の
ケーススタディを通して方法論を探った
[写真4]年1回、秋から冬にかけての2週間、CETエリアの空き物件を時限的に借りて
ギャラリー化するイベント『CET(Central East Tokyo)』(2003〜2010年)
[スライド1]点から面へ。そしてアメーバ状にネットワーク化する「エリアリノベーション」
[写真1〜4、スライド1:Open A 提供]
馬場正尊/建築家/株式会社Open A代表取締役、東京R不動産ディレクター、東北芸術工科大学教授
PROFILE:ばば・まさたか/1968年佐賀生まれ。1994年早稲田大学大学院建築学科修士課程(石山修武研究室)修了。博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2003年オープン・エーを設立。 都市の空地を発見するサイト「東京R不動産」を運営。東京のイーストサイド、日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断しながら活動している。
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