DISCUSSION
Vol.27
坂本崇博
合同会社SSIN代表、コクヨ株式会社働き方改革プロジェクトアドバイザー
イノベーションを起こすワークスタイル
――― 新しい時代の生き方vol.1[後編]
2020/12/15
Qイノベーションを起こすための秘訣を教えてください。
A :よくある失敗例が「仕組み」でイノベーションを起こそうとする方法です。
[スライド1]仕組みをつくっただけではイノベーションは起きない
会社は仕組みをつくって終わり。後はメンバーに任せるよ、というのが多いですね。新規事業開発室やオープンイノベーションセンターをつくり、プロセスにデザイン思考を取り入れたからと言って、イノベーションは起きません。イノベーションを起こすのは「人」。あくまで個人の活動と個人同士の偶発的な繋がり、その相乗効果によるものです。
では、どうやってイノベーターを育てるのか? いろいろな人財育成論がありますが、まずは「その人自身がイノベーターになろうと思うこと」だと思います。世の中をちょっとでも変えたい、自分なりの爪痕を残したい。不謹慎かもしれませんが、今のように社会が混乱したり、何か大きなことが起きた時、イノベーターというのは、「自分に何ができるだろう」とワクワクする特性があるものだと思います。
以前、「TOKYOイノベーターズ」という研究会を企画し、老舗メーカーなどで実際にイノベーションを起こした社員や、イノベーターになりたい社員を集めてディープヒアリングをした際、イノベーションを起こした人たちに共通する、ある特性が分かりました。10人中7人が労働組合の役員経験、または人事で組合担当経験がある。若いうちから、他部署や経営側と対等に話をし、社内に知り合いが多い人なのです。また、9人中3人が事故や病気などで生死に関わる経験をしており、「生きているだけで丸儲け」的スタンスがある。そして最後に、全員に共通していたのが「何が起こるか分からないのなら、やってみよう」というスタンスを持っていることです。
Qご自身はイノベーションを起こすために、実践されていることはありますか?
A : イノベーション理論は既にいろいろな研究がされており、有名どころは2008年に経営学者のサラス・サラスバシーが発表した『エフェクチュエーション』(邦訳版:碩学舎/2015年)です。ここでは27人のイノベーターに共通する行動原則を次の5つに整理しています。①「手中の鳥」(Bird in Hand)、②「許容可能な損失」(Affordable Loss)、③「クレイジーキルト」(Crazy-Quilt)、④「レモネード」(Lemonade)、⑤「飛行機の中のパイロット」(Pilot-in-the-plane)。これらを私なりに言い換えると、①と②は「試(ためす)」のスタンス。前例にこだわらず、未知なことでも「試せる」ことに喜びを感じます。
[スライド2]エフェクチュエーション理論①②
③と④は「使(つかいたおす)」のスタンス。既存の手段やリソースを「使い倒す(ハッキング)」ことが上手いです。
[スライド3]エフェクチュエーション理論③④
⑤は「志(こころざしをもつ)」。自分の力やパッションに自信があり、状況を観察して時には方向すら変え、成果への道に向かってコントロールできるということです。
[スライド4]エフェクチュエーション理論⑤
これまでの私を振り返ると、例えば新人営業マン時代、「会いに行く」ではなく「来てもらう」営業スタイルを思いつき、試しにやってみました。自分が使えるお金と時間をめいっぱい使い、課題解決型の提案をするセミナーを開いてみたのです。DMを送り、駅前や公園で演説してプレゼンテーターとして演じる練習を繰り返し、セミナー開催後には自分の手料理をふるまう懇親会を開いたりもしました。みなさんに喜んでいただき、大勢集客できました。
よく「失敗を恐れるな」と言われますが、そうは言ってもやはり失敗はしたくないですよね。企業の中で何かやりたいと思った時、「確実に成功する」とは言い切れない、と多方面から反対されたり再考を促され、進められないことがよくあります。それでは新しいことを試す機会は非常に少なくなってしまいます。ゴールに「成功」を置くから、失敗すると「失敗」になるわけで、そもそもゴールを「このやり方で成功するか試してみたい(効果検証が目的である)」と言うと、意外と反対されないものです。
また、私はもともと60㎏の痩せ型だったのですが、30代になって体重が90kg台まで太ってしまったんです。この時「これは使えるチャンスだ」と思い、いったん太った自分の写真を撮って、ダイエットに挑戦し、合わせて健康管理士の資格も取得しました。ちょうどその頃、会社経営では「健康=well-being」への関心が高まりつつありました。いち早く「健康経営」に取り組んできたDeNAの平井孝幸さんとのご縁もあって、彼らと共に、一般社団法人日本健康企業推進者協会を立ち上げ、自らの健康改善体験談を講演会で披露しつつ、「健康企業指導員」養成講座という資格ビジネスを始動させました。また、渋谷にある企業・団体と「渋谷ウェルネスシティ・コンソーシアム」を設立するなど、さまざまな人を巻き込んで(使)、健康経営を普及させるプロモーションを展開したりもしました。
Q他の人・組織とのコラボレーション、つまり「共創」によるイノベーションは、オフィスの空間設計でもキーワードになっています。
A : 私は何か新しいことをしようとする時、社内や自分のリソースだけで実現できそうなアイデアに留めず、外部と組むことを前提に発想することを心がけています。会社経営と同様、大きなことをやるには、自己資本だけではダメで、「他人資本」も使うべきです。ここで重要なのが自己資本の棚卸し(洗い出し)です。みなさん、自分がもっている資本(価値)で、どれだけの他人資本を引っ張ってこられますか? 日頃の信用がないと難しいですよね。そこで私は日々「自己資本(信用)」の積み上げを意識し、常に何かあったら誰かにアドバイスする、手伝うことを習慣にしています。時にお節介と嫌われることもありますが(笑)、日々の情報収集のアンテナのはり方も、「身の回りの人に役立つものを」という視点で行います。結果として、自分に興味がない分野にも「きっと誰かに役立てられる」という視点で興味を持つことができ、経験や知識の幅を増やすことにも繋がっています。このように常日頃から「GIVE」を心がけることで、いざという時に「TAKE」を得ることができるのです。
最後にぜひ紹介したいのが、オムロンでイノベーションに取り組み続けてきた竹林一氏が提唱する「起承転結」人財の理論。
[スライド5]新規事業化過程で必要な「起承転結」人財
イノベーションを起こすには、ひとりの人財だけでなく、起承転結それぞれの役割を果たす複数の人財とその連携が必要だ、と言うわけです。課題を見い出し、コンセプトを生む「起」人財。事業構想を立て、ロードマップをつくる「承」人財。綿密に計画し、事業化を実現する「転」人財。運用しながら改善・拡大する「結」人財。私自身は「起」と「承」の間だと思っていますが、みなさんはいかがですか?
坂本崇博/合同会社SSIN代表、コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部働き方改革プロジェクトアドバイザー
PROFILE:さかもと・たかひろ/1978年兵庫県生まれ。神戸大学経済学部を卒業後、コクヨ株式会社に就職。“効率化”という観点から会議体の工夫、情報管理方法のアドバイスなどを自ら考案し、新規事業として立ち上げる。同サービスが評判を呼び、2016年に総務業務を中心としたアウトソーシングサービスを提供するコクヨアンドパートナーズ株式会社を設立。現在は、コクヨ株式会社にて働き方改革プロジェクトのアドバイザーを務めながら、個人でも助言家として、土日を中心に地方自治体などで講演活動を行なっている。
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