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「建物をつくる、信頼をつくる」

工務部 兼 R&D推進部 BIM推進室
エンジニア 川端 慎也

設計が終わっても、設計事務所の仕事は終わりではありません。設計図通りに建物がつくられているか、コストや工期に問題は生じていないか ―― 工事監理は、長い建築プロジェクトにおける「最後の砦」として、建築物の品質を確保する職能です。ミスやエラーを見逃さない厳しい目で図面や現場をチェックしつつ、変更やトラブルが生じれば、関係各所と柔軟に調整。そして何より、みなが気持ちよく働けているか、日々心を配る川端慎也の+EMOTIONは「建物をつくる、信頼をつくる」です。

全ての寸法には根拠がある

私たち工事監理者は、設計図が完成し、施工会社が決まった段階からプロジェクトに参加します。実際に建物をつくるには、設計図の情報をより詳細な施工図や製作図に落とし込む必要があり、施工会社から上がってくるこれらの図面類をチェックするのが重要な仕事のひとつです。その際は、「全ての寸法には根拠がある」という心で図面を読み込みます。時には設計図の解釈をめぐって意見が分かれることもあり、なぜ、この寸法なのか ―― 意匠や構造、法規など、その背景に潜んでいるさまざまな要因を理解していなければ、三菱地所設計として守るべき品質を担保することができません。もちろん、実際に施工会社がものをつくる上で必要になる寸法もあるため、最終的により良い建物を完成させるにはどうすべきかを判断し、みなさんに納得してもらえるように努めます。新人時代に上司から教わった「追求して考える姿勢」は、図面のチェックに留まりません。なぜ、この書類が必要か。なぜ、この検査が必要か。工事に関するすべての事柄において根拠を考えます。

建物のスミからスミまで理解したい

もともと街並みや建築に興味があり、物理が得意だったので、大学では建築学科に入学。大学院で構造系の研究室に所属し、実験や研究を重ねる中で、建物が実際どのようにつくられるかを理解したいという思いが強くなりました。そんな時、ちょうど就職活動の過程で出会ったのが工事監理という職能。OB訪問で話を聞くと、大規模な建物を中心に扱うゼネコンでは、工事に関わる人数が多いため、自分が関わる工種が限られるのに対し、当社のような組織設計事務所では、扱う建物もさまざまであり、若いうちから工事全般に関われることを知りました。まさに自分が思い描いていた「建物のすみずみまで知ることができる仕事」だと感じました。
三菱地所設計の工務部では、新人時代、まず2年間、工事監理を現場で経験します。最初は「丸の内永楽ビルディング」(延べ床14万平米、2012年竣工)。いきなりの大規模現場で、終盤の内装工事の段階から加わりましたが、毎日現場に通う常駐監理だったので、日に日にできあがっていく様子を間近で見られて、とても楽しかったです。もちろん最初の頃は、打ち合わせに出ても、飛び交う用語が全く理解できず、ひたすらメモ、帰ったらそれをネット検索……そんな日々が続きました。2年目には早速麹町のオフィスビルと千葉の商業施設の現場を任され、同時並行で担当。同じ鉄骨造でも、耐用年数が異なるオフィスと商業施設では外壁のつくりが違うなど、知識がどんどん広がりました。発注者や施工者の「なぜ」にも少しずつ回答できるようになり、責任の大きさに比例して、日に日に成長する自分が嬉しかったです。

部活に打ち込んだ大学時代(左)。会社でもバスケットボール部に所属(右)

入社2年目に担当した麹町フロントビルの現場。配筋検査(左)、工場での鉄骨検査(中)、壁材敷き並べ検査(右)の様子

相手の役に立つことを考える

次の2年間はコストマネジメントを経験し、入社5年目に再び工事監理へ。延べ床14万平米、JR田町駅直結の超高層ビルや、この「神奈川大学みなとみらいキャンパス」(延べ床5万平米、2020年竣工)など、さまざまな用途・規模の建築プロジェクトを担当してきました。経験を通して気が付いたのが、自分の仕事をうまく回すには、まず相手の役に立つことを考えよう、ということ。自分の意見を押し付けるのではなく、相手にとって手戻りの少ない方法やコストを抑える技術を提案したり、時には自分の利益に関係なくアドバイスする。その積み重ねの中で、まだまだ若手である自分の声にも耳を傾けてもらえるようになりました。関係者が気持ちよく仕事することで、プロジェクトは良い方向に進み、建物の品質向上にもつながると実感しています。毎回新しいチームでゼロから関係を築いていくのは実は得意ではないので、人の役に立つこと、相手の立場になって考えることを、意識的に心掛けています。

神奈川大学みなとみらいキャンパス(2020年)。高層タワーと低層部から成る都市型キャンパス(左)。吹き抜けを介してコモンズ空間がゆるやかにつながる(右)

前面道路と一体化したエントランス広場を中心に、低層部のホールや図書館を配置。外装のアルミサッシやルーバーは、中国の工場で検品(左から2番目)。臨海部で風の強いエリアのため、部材同士が当たって音を出し続けることがないよう、細心の注意を払った。最後の写真は鉄骨の建て込みの様子

竣工後を想像する

コロナ禍において、工事監理にもリモートワークが普及しつつあります。特に図面類のチェックや打ち合わせは遠隔で行えるようになり、新人時代のような、現場にできるだけ滞在する、というスタイルではなくなりましたが、やはり現場でしか分らないこともあります。直接目で見て感じた違和感からエラーを発見することもあり、その感覚は大切にしたいと考えています。それでも竣工後の年次検査で直さなければならない部分が生じることがあって、事前に使い勝手や安全性をもっともっと想像し、工事中に対処しておけばよかったと思うこともありますね。経験豊かな上司ともなると、現場でも図面でも、エラーが「光って見える」と言いますので、その域はまだまだ遠いです(笑)。道半ばではありますが、これからも物事の「なぜ」を考え続けて、三菱地所設計が、創業から130年間にわたって大切にしてきた高い品質、培ってきた信頼を、引き継いでいきたいと思います。

現在、四ツ谷で建設中のオフィスビルを担当。現場で施工者との施工図検討会議の様子(左)、社内の意匠設計者と施工図懸案事項や設計変更内容、発注者への確認事項についてリモートで打ち合わせ中の画面(右)


[インタビュー:2021.6.11]

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