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MY +EMOTION

「細部にまで優しさを」

電気設備設計部
エンジニア 長濱 絵理

受変電・発電設備から、照明や通信、セキュリティや防災などの設備、エレベーターなど、建物の電気に関するあらゆることを担当する電気設備設計者。近年、省エネや自然災害への対策など、社会の関心が高まっている分野です。建物に関わるすべての人が快適に、安全に使えるように。長濱絵理の+EMOTIONは、「細部にまで優しさを」です。

建物に関わる人を
くっきりと想い描く

電気設備の設計をする際に大切にしているのは、その建物に関わる人をしっかりと想い描くことです。オフィスであれば、そこで人がどう働くのか、商業施設であれば、どんな気持ちで、どう人が動くのか。また、管理や運営する側のことも想像します。使い手が、そこに電気設備があることに気が付かないほど自然で、スムーズに利用できる環境がつくれたらベスト。法規はもちろん、快適性や安全性、意匠性や施工性、建設にかかるイニシャルコスト、維持管理や設備更新にかかるランニングコストなど、クライアントや意匠・構造・機械設備設計者などとともにバランスを取りながら考えます。建物全体にどれくらいの電気をどう流すのか、どの設備をどこに配置するか、最後はコンセントの位置や色・形など細部まで決めていきます。

「生命化建築」の研究に挑んだ大学院時代。ペット型ロボットに組み込まれた各種センサーにより、建築物の状態や居住者の快・不快感を検知することで、建物自らが居住者に合わせた快適な空間に変化していく建築の実現を目指した。写真は修論発表後に研究室の同期と(左)。アメリカに短期留学した際、ホームステイ先で生活振動の実験中(右)

新人時代に学んだ仕事の原点

入社して8年。さまざまな規模、用途の建物を任されるようになった今を支えている、新人時代の経験が二つあります。一つは、先輩に付いて回ったクライアントとの打ち合わせの議事録作成を任されたこと。通常は各担当者がそれぞれ記載し、意匠設計者が取りまとめることが多いのですが、教育担当の先輩から「勉強になるから」と言われ、電気設備の議題がない打ち合わせ記録も担当しました。右も左も分からない中で取り掛かり、最初は作成に丸1日かかったり、先輩や他部署のチェックで真っ赤になりましたが、赤字が入らなくなった頃には、電気設備以外のことや、プロジェクト全体の進め方が分かるようになりました。いつも丁寧に、時に厳しく、そして根気強く指導してくださった先輩は、今も大きな存在です。もう一つが、1年目の終わりから担当した「フロントプレイス南新宿」。初めて主担当として任せていただいたプロジェクトで、緊張しながらも、クライアント、社内のチーム、施工者の皆さんに支えていただき、最初の基本計画から工事監理、最後の竣工引き渡しまでやり遂げたことで自信がつきました。今でも仕事の進め方に迷った時など、事あるごとに振り返っています。

初めて主担当を任された「フロントプレイス南新宿」は、新宿御苑に近接し、交通利便性にも優れる地上8階、地下1階建てのテナントオフィスビルで、1階には店舗も入る。現場での立ち会い検査(左)と受変電設備工場での検査(右)

気遣いを大切に

意匠・構造・機械・電気の設計は、どれも一人では完結しません。機械設備の電源ルートを構築するのは私たちの仕事ですし、意匠からデザイン性に配慮した機器配置を考えて欲しいと相談されたり、配線のために躯体に穴を開ける必要が出てくれば構造に相談します。中には難しい課題もありますが、互いの要望や意図を汲み取り、日々、4者で打ち合わせながら、一緒に最高の建物をつくり上げていきます。その中で私は、基本設計のフェーズを特に大切にしています。最初にその建物の電気設備に関するコンセプトや考え方をしっかり固めておくことで、後々、設計変更やクライアントの要望にもスムーズに対応することができます。その方針は、電気設備が専門でない人にも分かりやすく、見やすい資料にまとめるように心掛けています。相手が何を気にしていて、何に疑問を持っているのか日々、想像することが大切ですね。

あらゆる経験を仕事に生かす

5年目の夏から産休・育休を取得させていただく中で、夫の仕事の都合で約1年半、フランスでの生活を経験しました。新築よりも古い歴史のある建物の方が価値があったり、建物の外観は似通っていてもそれぞれの部屋には住む人の個性がにじみ出ていたり。照明も必要なところに必要な量だけ配し、陰影を大切にするという考え方で、日本とは異なる文化を体験できたことは非常に大きかったですね。職場に復帰する時はやはり不安もありましたし、今は時短勤務で作業時間にリミットがあることにストレスを感じる面もある一方、子どもの自由な発想や、子ども目線での空間の見え方など、育児から学ぶこともたくさんあります。建物を設計するという仕事においては、どんな経験も視野を広げる絶好の機会になり得ることが、大きな魅力ではないでしょうか。
子どもの頃から建物が好きで、住宅広告の間取りを見ては、自分ならどう暮らすかを妄想して楽しんでいました。今思えば、その頃から興味の対象は建物そのもののデザインよりも、その中にある暮らしでした。建物が好きという初心を忘れず、あらゆる経験を仕事に生かして、使い手に寄り添う「細部にまで優しさが宿る建築」を目指します。

思い出深い、パリでの暮らし。街全体で統一されたライトアップ(上左)。セーヌ川にも光が映り込む(上右)。パリの美しい街並み(下左)。森の中に突然現れるルイ・ヴィトン財団美術館は、ガラス、木、鉄骨、コンクリートという異なる素材が融合された、大好きな建築物の一つ(下右)


[インタビュー:2020.3.5]

+emotion 細部にまで優しさを 長濱 絵理

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