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MY +EMOTION

「こころに留まる場所をつくる」

建築設計一部
アーキテクト 小林 はるか

オフィスを中心に手がける建築設計一部。昨今、激動する現代社会の中で、求められるオフィス像も変化し続けています。どんな時代、どんな施設においても、人が自然と「そこに居たい」と感じられる空間づくりを目指す小林はるかの+EMOTIONは、「こころに留まる場所をつくる」です。

こころに留まる

その建物を使う人、近隣で働く人、たまたま通りかかった人、さまざまな人の「こころ」に少しでも留まる場所をつくりたい ―― 学生時代、海外を旅した時に感じた気持ちが、私の設計の拠り所です。高校生の頃から意匠設計者を志し、大学に入ってからは、アルバイトで旅費を貯めては海外の現代建築を見て回りました。大学院生時代、留学していたパリで、しばしば訪れていたのが「ポンピドゥー・センター」(1977年)です。建物前の広場がスロープ状になっていることで、たくさんの人が憩うきっかけになっていたり、ガラスチューブのエスカレーターで最上階まで上がる時に、徐々に上がる目線でパリの街並みを見渡すことができたり、ここにこの建築があるからこそ体験できたことがたくさんありました。人びとに愛されて使われている感じもとても良いと思いました。「この建築があるからこその経験」ができる、そんな場所をつくりたい。人が「ここに居たい」と感じるのは、居心地の良さに加えて何か発見があったり、好奇心を刺激してくれるような場ではないかと思うのです。

卒業論文で調査したペナン島のヘリテージエリア。同じ形の建物を個性的に使いこなす街並みがおもしろい。

フランス、パリのグランパレ。ここにしかない美しい空間

同ポンピドゥー・センター。たくさんの人が憩う

「思い出の場」となる研修施設

2008年の入社以来、オフィスの設計を中心に担当してきました。この十数年の間に、リーマン・ショックや東日本大震災、新型コロナウイルスの感染拡大など、世界を揺るがす出来事があり、省エネ性能、BCP(事業継続計画)、ウェルネスなど、さまざまな設計指標やトレンドが登場しました。また、デジタル技術の革新により設計手法も変わりつつあります。これらの知識やスキルのアップデートに勤しんでいる一方で、核となる設計の考え方や、心がけていることは変わっていません。入社5年目に担当した、企業研修施設「グローバルランニングセンター」で目指したのが、まさに「こころに留まる場所づくり」です。新入社員はここで社会人として初めて研修を受けた後、それぞれの勤務先へ配属され、その後、節目節目で研修を受けるために再びここに戻ってきます。大階段のある中庭を中心に据え、その周囲に研修エリアを配し、外周を宿泊エリアで囲いました。都市、そして日常から切り離された時間の中で、研修内容ごとにシーンが変わり、多彩な風景が生まれる立体的な構成です。長い社会人人生の中での支えとなるような思い出の場所に育ってくれると嬉しい限りです。

グローバルランニングセンター(2015年)。外周部に宿泊エリアを配置し、周囲の都市的環境から隔絶された落ち着いた研修エリア、表情豊かな中庭を内包している

「いつも+α」の場づくり

2019年に竣工した「JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE」では、東京・神宮外苑に建つスポーツ関連団体の本部ビルにふさわしい、力強さと繊細さを兼ね備えたデザインを目指しました。ダイナミックにひねったガラスカーテンウォールの内部には、開放的な景色を楽しめるラウンジを隔階に設けています。オフィスの設計では、仕事の合間にコミュニケーションが生まれたり、新しいアイデアがひらめいたりするような、「いつも+α」の場づくりを大切にしています。GRC製ルーバーで覆った東西ファサードは強い日射をカットしつつ、うがたれた曲線スリットから適度に採光。ルーバー面はわずかにS字を描いた曲面上に並べることで、レースのような動きのある表情を生み出しました。チームでデザインを模索する中で、メンバーみんなが「これだね!」というカタチが現れた瞬間があって、その造形を実現できたことは意匠設計の醍醐味ですね。クライアントも社員向けに工事現場見学会を開催するほど竣工を心待ちにしてくださり、私自身も途中に産休を挟みながら、設計から現場監理まで関わることができた思い出深いプロジェクトです。

JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE(2019年)。周辺の競技施設群に呼応する躍動的なデザインを具現化した、国内初施工のコールドベント工法によるガラスカーテンウォール、繊細な表情をもつGRC製ルーバーを組み合わせたファサード

一歩ずつ

当部ではチーフ、若手の2~3人がチームを組んで担当することが多いのですが、今、初めてチーフとしてチームを引っ張る立場でプロジェクトを進めています。私自身、最初の4、5年間、同じ先輩方に付いて、設計の手法や仕事の進め方をイチから教えていただきました。大学で学んだこととのギャップに戸惑いつつも、設計に限らず、構造や設備など、プロフェッショナルな先輩方にも助けていただきながら奮闘した新人時代を思い出し、身の引き締まる思いです。しかもこれまで経験のない研究施設やホテル、劇場の設計に携わる機会を得て、新たなチャレンジの連続です。一歩ずつ経験を積み重ね、さらに深く考えて、訪れる人の「こころに留まる」場づくりを目指します。

JAPAN OLYMPIC SPORTS SQUARE。

チームでの社内打合せ風景。


[インタビュー:2021.3.16]

+emotion こころに留まる場所をつくる 小林 はるか

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