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MY +EMOTION

「その次に挑むチーム」

建築設計二部 兼 TOKYO TORCH 設計室
チーフアーキテクト 多田 直人

多角的な思考を重ねつつ全体を俯瞰し、ひとつのカタチにまとめ上げていく意匠設計者は、プロジェクトの要。クライアントの要望やコストを満たすだけでなく、その時代、その場に建築する社会的意義を考えながら、プロジェクトを取りまとめる多田直人の+EMOTIONは「その次に挑むチーム」です。

原点になった「恐怖のお化け屋敷」づくり

建築に興味をもったきっかけは、高校の文化祭。2年続けて教室を「お化け屋敷」にしたのですが、初回は机を積み上げてつくった壁に沿って順路を進む、ごくオーソドックスなものでした。翌年はもっと面白いものにしたい、と思いついたのが、永遠に出られない「恐怖のお化け屋敷」。人が壁をつくり、その壁がお客さんと共に移動するんです。いくら進んでも教室から出られず、途中、お化けが飛び出してきたり、コンニャクが降りかかってきたり。エンドレスな恐怖が話題を呼び、長蛇の列ができました。1組あたりの体験時間がかかり過ぎたせいかもしれませんが……(笑) アイデア次第でこんなに違うものかと感動しました。これが、初めて空間というものを意識し、操作することの面白さを知った瞬間だったと思います。それで建築の道に進む決心をしたわけですが、今でも、新しいプロジェクトのビジョンを考える時間が一番楽しいですね。大学時代も、設計製図の授業だけは真面目にやっていました。良いアイデアを思いつくと、本当にワクワクします。

前提に捉われず、「その次」に挑む

三菱地所設計を就職先に選んだ理由のひとつは、当時、三菱地所から分社し新たなスタートを切ったばかりで、会社として手がけられる建築の幅が広がるチャンスだと、可能性を感じたからです。でも入社後に配属されたのは、当社伝統の集合住宅の設計を手がける部署(笑)。 ならば、この領域で新しいことに挑戦しようと思いました。一般的に分譲マンションの設計では、外装はせっき質タイルや御影石貼り、内装は天然木の突板や大理石貼りが定石です。それらを使えば「高級」に見える、というわけですが、そうではないアプローチを考え続けました。例えば、メインで担当した高層マンション「ザ・パークハウス 西麻布レジデンス」では、外壁のプレキャストコンクリートの表面を研磨し、自然石の骨材を現しにする仕上げに挑みました。内装では、水回りのカウンタートップに風合いのよいライムストーンを採用。通常は吸水率が高いため汚れがしみ込みやすく、敬遠されますが、稀に採れる吸水率の低い材を見つけ出して、ライムストーンはダメというイメージを払拭することにも成功。「押し付けの高級感」ではなく、幅広い価値観の提供を目指しました。

「ザ・パークハウス 西麻布レジデンス」。普通のコンクリートを素材として用いながらも、骨材の自然石が表面に現れることで、豊かな表情をもつ外観に。内装においても、大切にメンテナンスすることで経年変化を楽しむ自然素材を選んだり、真っ白でも汚れがつきにくい人工素材だからこそできるミニマムなディテールを追求した

2020年秋にオープンした「アロフト東京銀座」も担当。マリオット・インターナショナルが次世代のライフスタイル型ホテルとして位置付ける「アロフト」ブランドの日本1号店。外観からも遊び心とアートが溢れ出すデザイン

ビジョンだけでなく、リスクもチームで共有する

入社3年目の2006年に始動した「月島荘」プロジェクトでは、設計中に発生した東日本大震災を機に、都市計画制度を活用した高層マンションという当初の計画を180度転換することになり、「複数の企業で社員寮をシェアする」というユニークな発想をカタチにしました。全644室を中層3棟に分けて配置し、同じ企業の社員同士がかたまらないよう、部屋を振り分けています。約50室ごと、12のグループに分けて共用空間を設けたほか、1階は全体共用部とし、一部を地域に開放しています。他のグループに属する同僚などを介して異業種の住人とのつながりが増えていく、社員寮とシェアハウスを組み合わせた「Facebook」のような空間です。どのプロジェクトにおいても、その社会的意義を考え、自分なりのビジョンを持って取り組んでいますが、特に月島荘では「今ここにつくるべきものは何か」、チームでも議論を尽くしました。その時、ビジョンだけでなく、何が問題なのか、どんなリスクがあるかを明確にし、チームで共有することが不可欠。クライアントも含めたチーム全員が同じ方向を向き、各々が力を発揮したことで、一歩先に挑んだプロジェクトを実現できたのだと思います。

企業社員寮にシェアハウスの概念を取り入れた「月島荘」。1階は2つの中庭に面してガラス張りの共用空間が並び、そこで過ごす人、通り抜ける人の視線が敷地内だけでなく、周辺の街並みにまで広がってゆく

バラバラなものを統合するストーリー

プロジェクトを進めていく中で、敷地や法規、意匠性、経済性、施工性などのさまざまな構成要素の全てが、あるストーリーで統合される瞬間があります。バラバラだったものがカチッとはまったその瞬間、チームの方向が定まり、プロジェクトが大きく動き出す。これこそがデザインだと思っています。各プロジェクトで掲げたビジョンが少しでもカタチになるように設計し続けて約15年。今までにないプログラムや、ちょっとユニークな案件があると、声をかけてもらえるようになりました。「TOKYO TORCH (2027年度竣工予定)」では、高層階に入るホテルや展望施設などの設計を担当しています。ロビーが位置するのは57階、地上300mを超える高さに加え、100m×100mという巨大な平面。そんな特別な場所で、どんな体験を提供できるのか。今、大きな転機を迎えた世界の「その次」を思い描き、模索する日々を楽しみながら、挑み続けています。

「TOKYO TORCH」のコンセプトアクソメスケッチ(左)と300m超に計画している緑と風に包まれる屋外空間(右)

現在、「渋谷道玄坂二丁目南地区再開発計画」も担当(写真は打ち合わせ風景)。敷地は渋谷マークシティに隣接し、坂と路地で構成される道玄坂の特性を生かした、その場所らしさや新しい働き方とは何かを模索中


[インタビュー:2021.3.4]

+emotion その次に挑むチーム 多田 直人

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