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連載|ものづくりの視点

ものづくりは人生の証

岩井 光男

アスベスト問題、耐震偽装問題、手抜き工事、悪質リフォーム、不法改修工事、談合など、建築を取り巻く一連の不祥事がメディアをにぎわしている。

さて、私たち建築関係者はこの問題をどのように考えたら良いのだろうか。「このような悪いことをする人たちはごく一部で、私たちはまじめにやっています。私たちは彼らと関係ありません」と言って済ませてしまっては、いつまでたってもこのようなことはなくならないだろう。現在、耐震偽装問題をきっかけにして日本建築家協会、日本建築士会連合会そして日本建築士事務所協会連合会が再発防止と建築界の信頼回復に向けて活動しており、それぞれの立場で資格制度、責任の明確化、団体加入などについて語っている。いずれも建築を設計し、造るということを職業にしている人々の職能団体だが、なぜ三つもの団体が存在し、それぞれ異なった意見が出るのか、一般社会の人々や私たちのクライアントには到底理解できないことと思われる。それぞれの利害を超えて、国民にわかりやすい統一した解決策をぜひお願いしたい。

発注制度、生産システムなど、建築業界は実は私たちだけでは解決できない問題をたくさん抱えている。建築は多業種の集合体によって造られ、また完成した建築はそれらを使う人々のものであることを考えても、発注者、設計者、施工者が一緒に解決策を考える必要がある。建築職能団体という枠にとらわれることなく、広く社会との会話を求めていきたい。

その一方で、私たち自身が努力していかなければならないこともある。今回の一連の事件は、建築を造るプロセスにおいて一般の人々にとってはブラックボックスの部分で起きている。私たちはクライアントの信頼によってより良い仕事をすることができる。信頼は一朝一夕にして得られるものではなく長い時間をかけ積み上げていかなくてはならない。社会の信頼を得るには私たちの仕事のプロセスからブラックボックスをなくし、建築を造るプロセスをクライアントにすべて明らかにすることが必要となろう。

もう一つ大切なのは職業倫理である。これは他人任せにできない。私たちの考える職業倫理を常に社会の倫理と照らし合わせながら、私たち自身が考え行動していかなければならない。私は旧帝国ホテルの設計者である米国の建築家F・L・ライトや北欧の建築家アルヴァ・アアルト、そして生誕100年を迎えた建築家前川國男など、時代を代表する建築家に憧れ、自分の設計した建築を造ることを夢見てこの世界に飛び込んだ。そこにはただ建築に対する純粋な心があったと思う。耐震偽造に関わった設計者や施工者たちも建築やものづくりを志した若き日に、このようなやましいことをすることなど考えていなかったと信じたい。

建築に限らずライブドア問題にも共通するものがあるが、際限のない欲望に飲み込まれていつしか光の届かない暗黒の世界をさまよう餓鬼のようになってしまう可能性は誰にもある。しかし私たち建築関係者は初心に戻って、金に代えられない「ものづくりのこころ」を思い起こしたい。私たちが造り上げた「建築」や「もの」は私たち自身の人生の証であり、それによって社会の信頼を得ることが私たちの最上の喜びであることを。そのように初心に立ち返り、誠実に利害を超えて社会にわかりやすい仕事を積み重ねていくことで、私たちの職能が正しく評価される日がやってくると確信している。

ものづくりは人生の証