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連載|ものづくりの視点

法と倫理

岩井 光男

耐震偽装問題に端を発して、今の建築界の実態にあった法整備が求められている中、この度、建築基準法と建築士法が改正された。基準法では構造計算適合判定制度の導入、3階以上の共同住宅の中間検査義務化そして罰則の強化が特徴的である。士法では、名義貸しの禁止など業務の適正化と罰則の一部強化が盛り込まれた。また、第2弾の制度改革として、一級建築士の資格付与要件の強化と、構造、設備の専門資格者制度創設といった建築士制度の見直し議論が熱を帯びている。これらの内容については必ずしも関連職能団体の一致した賛同が得られているわけではないが、私たちはこれを機に早急に社会の信頼を得るように努力すべきである。

今回の改正で私が注目するのは建築士法の第二条の二と第二十一条の四である。前者は職責について、「建築士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、建築物の質の向上に寄与するように、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。」とあり、後者は信用失墜行為の禁止として「建築士は、建築士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」と規定している。建築界における職業倫理の欠如が大問題となったからではあるが、法律でこのような職業倫理を規定されること自体、建築関係者として屈辱を感じている。

実は日本建築学会をはじめ日本建築士会連合会や日本建築家協会などの各職能団体では、このような問題が明らかになる前から、それぞれ倫理規定や行動規範などを定めている。たとえば建築士会は会員倫理規定の1に「法令等の遵守と品位の保持」について定めており、また建築家協会は建築家憲章に「倫理の堅持」を謳ってきた。しかしこの高邁な精神と現実との乖離は、度々業界内でも問題にされてきたが、昨今の出来事でついに一般の市民にまで知られるところとなった。談合、ダンピング、名義貸し、欠陥住宅、悪質リフォーム、そして今回の耐震偽装と、全て倫理的問題が指摘されているが、欧米の建築家に比べ、社会的地位の低さを嘆く我が国の建築士が果たして世界に胸を張れるような倫理観をもって仕事をしていると言えるだろうか。日本よりもその会員の社会的地位が高いと言われる米国建築家協会(AIA)でも、「倫理と職業の責任」についての定めがある。そこには倫理規則と職能行為について具体的に書かれており、違反した場合の罰則についても明記されている。そして注目すべきは、建築とデザインの分野で起きる倫理問題について、AIA主催のセミナーや大会で教育プログラムを実施していることである。このことはAIAが職能団体として職能倫理とその教育をいかに大切に考えているかを明らかにし、また、今日の社会的地位がそういった地道な努力によって培われてきたことを物語っている。

戦後日本では「倫理」が置き去りになってきたと言われる。学校教育においても倫理に触れる場はなく、社会に出ても技術や経済優先の環境で倫理がないがしろにされる状況が長く続いてきた。今こそ、各職能団体はその会員に社会に通じる職能倫理の教育を徹底すべき時である。

最近、各職能団体は会員数の減少に悩んでいる。その原因は入会していることに価値を見いだせないからである。入っていることが社会的に信頼を受けるような組織へ再生することが必要である。会費を安くして会員を増やそうなどと姑息なことは通じない。逆に入会資格を厳しくして会員の社会的ステイタスを高めることである。入会を許可する時は、その団体の行動憲章や倫理規則の遵守を約束させ、違反したときはその建築士を公に弾劾し、退会させるくらいの権威を持ってほしい。

自分たちの職能は自分たちの手で守り、育てる。私たちの職業倫理が社会に認められるためには自らを律せねばならない。これは法律で定められる性格のものではない。尊敬される建築家になるための道は険しい。

法と倫理