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連載|ものづくりの視点

異分野との対話

岩井 光男

先日、「不都合な真実」という米国映画を見た。地球の温暖化が私たち人類の想像を絶する自然環境の破壊をもたらし、あらゆる生物が著しい影響を受けて遠からず絶滅に至ると予測させる映画であった。私たち市民が今すぐ、どんな小さなことからでも地球の温暖化防止に立ち上がらなくてはと心を動かされた。確かに文明・科学技術の急速な進歩は私たちの生活を快適にし、人類の夢を実現してきたが、反面では地球環境へのケアを疎かにしてきたと言える。建設業界をとっても、産業廃棄物の排出量は全体の約2割を、建築物の建設・運用に伴う二酸化炭素排出量は約1/3を占めるとされ、今もって増加傾向にある。街づくりや建築に携わる者にとって環境問題における社会的責任はますます重くなっている。

日本建築学会のサステナブル・ビルディング小委員会ではサステナブル建築の定義を「地域レベルおよび地球レベルでの生態系の収容力を維持しうる範囲内で、建築のライフサイクルを通しての省エネルギー・省資源・リサイクル・有害物質排出抑制を図り、その地域の気候・伝統・文化および周辺環境と調和しつつ、将来にわたって、人間の生活の質を適度に維持あるいは向上させていくことができる建築物」と定めている。このまま化石燃料を使っていけば映画のように遠からず地球は死滅するであろう。建設業界においても一刻も早く環境への負荷を極力抑え、地球環境と社会とを維持し続けられる技術や社会システムを確立する必要がある。

江戸時代、100万を超える人口を抱えた江戸の環境は理想的な循環社会であったと言われている。都市と農村との間で、糞尿を下肥として循環させるシステムや武蔵野に広がる雑木林の計画的な植林によって薪などの燃料を供給するシステム、さらにはアブラナから採ったナタネ油を明かりに使うなどの持続可能な循環システムが成立しており、上水網が整備され、人々は清潔で文化的な生活を営んでいたようである。それらのシステムを支えたのは生きた地域社会の存在であった。

社会システムが複雑化、高度化、肥大化した現代の都市を取り巻く環境は江戸時代と比べものにならない。街づくりや建築設計を担う技術者に求められる知識も増大しており、個々人が対応できる専門領域をはるかに越えてしまっている。同様に、希薄な隣人関係でも生活が可能なため、住民同士の横のつながりは形骸化し、循環型の社会システムを支える地域社会の存在も期待できない。

そんな中、丸の内では循環社会を再構築するため、新しい取組みを始めている。三菱地所が新丸ビル内にオープンした「エコッツェリア」は、まちづくりにおける環境共生の取組みをハード・ソフトの両面から展開する拠点である。ここでは、丸の内エリア内外の環境にかかわるさまざまな「ヒト・モノ・コト・情報」の交流によって、新たな技術やシステムを生み出していくとともに、一般の人に対しても環境配慮型の生活を提案する。技術者が専門分野を深めるだけでなく、他分野からも衆知を集め、専門を超えた総合的な視点を培う場となることを期待している。私も建築設計を担う技術者として、丸の内で就業するオフィスワーカーとして、世界に発信できる環境共生のまちづくりにかかわって行きたいと考えている。

異分野との対話