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連載|ものづくりの視点

建築家は地球環境を救えるか

岩井 光男

10月中旬、日本建築家協会20周年記念大会が東京国際フォーラムで開催された。今年は「環境の世紀と建築家 2050年再生に向けて」というテーマのもと、地球温暖化に象徴される環境問題について建築の視点から講演やパネルディスカッションが数多く行われた。大会冒頭の基調講演では元ホノルル市長のジェラミー・ハリスさんから「私たちの時代の課題は、先進国と途上国双方が地球環境を破壊することなく良質な生活を確保できるように持続可能な都市に再構築することである。そこで果たす建築家の役割は大きい」という力強いメッセージがあった。

現在の環境破壊は地球が回復する速度を大幅に上回っている。地球の温暖化が引き起こす砂漠化や異常気象など深刻な実態が知られるようになっても、依然として石油や石炭の大量消費が行われCO2の排出は増すばかりか、オゾン層の破壊、大気・水質・海洋汚染、森林破壊など地球全体の環境破壊が進んでいる。特に温暖化については、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、化石エネルギーに依存した高い経済成長を続けると21世紀末(2090年から2099年)の世界の平均気温は20世紀末(1980年から1999年)に比べ約4℃高くなると予測している。1906年からの100年間の平均気温上昇は0.74℃であったのが、これからの100年は急激に上昇することとなり、生態系への影響は計り知れず、その弊害が人類に及ぶのも明らかである。

特に資源国では、天然資源の高騰によって得た豊富な資金によって大規模開発が進行し、環境保全とはかけ離れた大量のエネルギーが消費されている。今日まで先進国の私たちの生活は途上国の天然資源や低コストの労働力に支えられてきた。それ故、途上国における環境破壊の責任の一端は私たちにもあり、その改善に努力しなければならない。すでに「排出権取引」などが始まっているが、まさにグローバルな「先進国と途上国」の関係がこれからの環境改善の鍵となる。

一方で、一人一人が環境改善に意識を持ち、身近なところから対策を実行していかなければ解決できない問題でもある。 ノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイさんの「もったいない運動」、またRefuse(抑制)、Reduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)で知られる「4R運動」など市民レベルの活動の輪は広がっている。

今年のJIA大会は、建築の分野における環境への取り組みを真正面から捉え、この問題を地域にとどまらないグローバルな視点で捉え直す良いきっかけとなったが、やはり、こつこつと身の回りの建築や街を持続可能なものに変えていくことが問題解決につながると思う。東京丸の内では、建築主、設計者、施工者、テナント、関係官公庁との連携により、ヒートアイランド現象の緩和としてビルの屋上・壁面、丸の内仲通りの緑化やドライミストの散布などの目に見える取り組みに加え、中水の利用、地域冷暖房システム、新規ビルでは窓回りの工夫や効率的な空調設備の設置によって環境性能評価システムCASBEEのSランクを取得するなど、さまざまな取り組みの積み重ねで街全体としてCO2の削減にあたっている。また、当社としては蓄積した建築の環境・省エネ技術をアジア各地などで積極的に提案していくことで、問題解決に寄与している。

地球の元気が回復し、美しい地球となることを夢見て、このような地道な努力の積み重ねにより豊かな環境をつくり、人々に提供し続けることが我々建築家の責務であると確信している。

建築家は地球環境を救えるか