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連載|ものづくりの視点

社会的信頼を構築するブランディング

岩井 光男

昨年11月、静岡県沼津市で第39回国際技能競技大会が開かれた。通称「技能オリンピック」と呼ばれるこの大会は、2年に一度、22歳以下の若者が互いの技を競い合う。今回は史上最多となる46カ国・地域から812名の選手が47競技職種に参加し、日本選手団は世界最多の金メダル16個、金銀銅のメダル総数も世界第2位の24個を獲得するすばらしい成果をあげた。メダル27個を獲得して世界第1位に輝いたのは躍進が目覚ましい韓国で、過去の大会の上位国を見ても、アジアは韓国、日本、チャイニーズタイペイ、シンガポール、ヨーロッパはスイス、ドイツ、スペイン、オーストリア、イタリア、イギリスなど、いずれも「ものづくり」の世界で伝統的な技術を持つ国々が並ぶ。日本は技術発展を支えてきた団塊世代の引退で技術力の低下が危ぶまれているが、「ものづくり」の技能が着実に受け継がれ、今後の技術発展を担う若い人たちがいることに一筋の光明を見る思いがした。

この技能オリンピックの結果からアジア諸国の躍進が見えてくる。技術力とともに工業製品の品質も向上しているのは建築に携わっている私も日常感じていることで、カーテンウォール、ガラス、加工石材など多くの建材がアジア諸国から輸入されている。経済産業省が発行した技術調査レポート(海外編)第1号「東アジアの技術力について」に、その背景として各国の積極的な人材育成や研究開発活動があると記述されている。1999年と2000年に米国が受け入れた留学生の約6割がアジアからという。今では、米国で教育を受けた優秀な研究者が自国に戻って研究開発に従事し、科学技術や工業の近代化に努めている。戦後の日本社会がそうであったように「ものづくり」に対する真摯な取り組みと熱意が感じられる。

一方「ものづくり」の進む道を時として妨害するのが、いまだ倫理的に成熟していない経済社会である。グローバルに展開される市場経済の当然の成り行きであろうか、サブプライムローン問題から世界経済の先行きがにわかに怪しくなってきた。とどまることを知らない利益追求がまたもや経済をおかしくさせてしまった。

日本でも実体を伴わない利益追求による不祥事が後を絶たない。古紙配合率を偽って再生紙製品を販売した製紙メーカーの環境偽装ともいえる行為が問題になっている。地球環境に対する社会意識の高まりの最中に何とも情けない。最近、ブランド構築を考えている企業は多いが、ブランディングの意味をはき違え、表面的なイメージ戦略に走るケースの他、製紙メーカー同様に、大臣認定を偽装した不正建材、食品の不正表示、産地偽装などすぐに化けの皮が剥がれるような不正も続出している。

自社のブランドに対する誇りは何処へ行ってしまったのか。ブランドは企業とそれを取り巻くすべてのステークホルダーとの相互信頼の上に成り立つものであることを今一度私たちは肝に銘じなくてはならない。目先の利益に囚われず、辛抱強く良いものを生み続けることこそが社会の信頼を得る真の意味でのブランド構築となり、将来大きな利益を生むのである。

技能オリンピックに挑戦した若い人々はそれぞれの国で産業の要になり自国のブランド構築に大きな役割を担っていくことだろう。人間社会の礎である「ものづくり」を絶やさないために、経済がそれをしっかりとサポートし、人が大切にされる健全な社会を我々の手でつくっていかなければならない。

社会的信頼を構築するブランディング