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連載|ものづくりの視点

震度6弱に備える

深澤 義和

4月24日、政府の地震調査研究推進本部より2008年版地震動予測地図(同本部および(独)防災科学技術研究所ホームページ参照)が公表された。この予測には、日本各地の今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が示されている。県庁所在地でみると、福島の0.1%から静岡の86.8%まで幅がある。

震度6弱の状況と被害について、気象庁は「立っていることが困難」「固定していない重い家具の転倒・移動」「扉の開閉障害」「かなりの建物での外壁タイル・ガラスの破損、落下」「建物の壁や柱の亀裂、破壊」「インフラ供給停止」「地割れや山崩れの発生」と説明している。現在の建築基準法では2段階の地震動の強さを想定し、稀に起こる地震に対し無被害であること、極めて稀に起こる地震に対し倒壊などの致命的な被害を受けないことを目標としている。このことから震度弱に対する耐震設計の実情を大まかに言えば、新築、耐震補強された既存建物ともに、倒壊などの致命的な被害は免れるが、さまざまな被害は起こり得るということになろう。

しかし、すべての建物に甚大な被害が出るということでもなく、軽微で済む建物もある。例えば、免震構造の建物や、超高層建築で最大速度25cm/sec.に対して構造体を弾性限に抑え、層間変形を抑えるように設計されている建物も被害が少ない。あるいは、暴風対策が施された結果、地震に対して余裕のある建物、品確法に基づいて耐震等級を上げて設計された建物も被害が少ない。さらには静岡県のように、東海地震対策として耐震性能を高く要求する地域もある。

一方で、注意しなければならないのは、耐震設計の目標が構造体を中心に考えられていることである。構造体が無被害であれば一般的には建物の変形も小さくなるから、その構造体に支持される仕上げや設備機器、家具什器の被害も軽くなることが予想されるが、それらの破損や移動転倒が、場合によっては人的被害や復旧阻害の要因にもなり得る。

また、確率の見方だが、確率の高い地域は覚悟しなければならないのは当然として、低い地域はどのように考えたら良いか。地震調査研究推進本部では3%以上を発生確率が高いとし、0.1%から3%までをやや高いとしていることから、結局、ほとんどの地域で発生すると考えざるを得なくなってくる。

以上から震度6弱への備えをまとめると、(1)新築する場合には震度6弱での被害対策を考えること、(2)耐震補強を要する建物は早急に実施すること、(3)すべての建築物において構造体以外の家具什器・仕上げ・扉・設備の地震対策あるいはそれらの損害を人災に結びつけず、早急に回復するソフト的な対策を進めることである。これは発生確率の高い地域ほど急ぐ必要がある。

今、企業では地震リスクにかかわるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の取り組みが進んでいる。これはまさしくハード・ソフト両面から震度6弱に備えるものである。また先進的なマンション管理組合では、LCP(Life Continuity Plan)として同様の取り組みを始めている。NPO法人耐震総合安全機構のような専門家組織もそうした総合的な対策に支援を始めている。さらに、緊急地震速報が有効に機能すれば、たとえ数秒の猶予でも人的被害の軽減に効果が期待される。

いずれ発生するであろう震度6弱に、我々建築関係者は、建物所有者や管理者の対策を支援するとともに、身の回りの人々の備えを高めるべく努めていきたい。

この原稿をまとめた後、中国四川省で大地震による甚大な被害が発生した。中国と日本の状況に違いはあるものの、改めて大地震に備えることの重要性が認識されたと思う。

震度6弱に備える