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連載|ものづくりの視点

設計専門家の役割は深く、広く

深澤 義和

構造設計1級建築士、設備設計1級建築士がまもなく誕生しようとしている。職能の分化と専門化が進んだ今日、耐震偽装事件などの不祥事を防ぐためには、専門家の資格制度を確立することは重要である。この資格は、「設計」がついた初めての資格である。設計の専門家の役割、存在意義について、改めて考えてみたい。

現在の構造設計、設備設計は、科学技術によって設計内容の適切さを明らかにするものである。従って、科学技術の知識が専門家の必要条件となるが、単に知識を持っているだけでは、分析や批判はできても設計という創造行為に結びつけられるとはいえない。科学技術を応用するためには、創造しようとする「想い」がなければならない。

では、構造設計、設備設計の専門家としての想いとは、何であろうか。これは、それぞれ表現は変わるかもしれないが、いい建築をつくること、あるいは、用・強・美を省資源・省エネルギーで工夫することであろう。そして、建築における用・強・美の実現は総合的なものであるから、現在の職能分化の中でいえば、意匠・構造・設備の職能がみなかかわって初めて実現に向かう。さらに、施工・監理の職能が関係し、安全、省資源・省エネルギーの観点からは、経済・社会も関係してくる。従って、それぞれの専門家は自分の専門以外の領域が何を目指しているかについても理解しなければならない。つまり、想いを実現するためには、建設にかかわる幅広い「常識」が必要なのである。これはいろいろな分野において、理想の専門家像はスペシャリティとゼネラリティをあわせもったT型人間である、と言われることと同じである。

このように専門家を捉えれば、意匠設計の専門家も構造、設備の常識を持つことが必要ということになる。一方で意匠設計の専門家に構造、設備の常識を持ってもらうよう説明、指導することが、構造、設備の専門家の重要な役割になるであろう。

この延長として、現実にプロジェクトを進める場合、課題解決のために、自らの専門性の限界を超える特殊能力を持った専門家や、違った領域の人間を参加させることも必要になろう。意匠・構造・設備の革新が他分野や素人の発想から始まった例は多い。自らの専門性の限界を意識し、謙虚で冷静な態度が必要である。このように専門性の奥行きと、専門領域を超えた幅広さをもった専門家同士、さらに専門外の者が加わって、「いい建築」をつくることができるのである。

そのベースとして、まずは建築主の意向を的確につかむこと、そして設計の意図を建築主に伝え、理解してもらうことが必要である。そのためにはコミュニケーション力、プレゼンテーション力が欠かせない。その力を発揮する過程で、専門家としての信頼を得ることになろう。こうした調整業務は設計行為の中では重要な位置を占めており、組織設計事務所では、そうした役割を重視して、育成し、評価している。組織設計事務所でなくても、設計チームを主宰するリーダーが求める専門家像は同じであろう。

構造設計、設備設計の専門資格制度発足にあたり、各設計専門家が資格を取得することにより、自信と自覚を持って、さらに職能を深め、広げ、建築という総合文化の発展に貢献することを期待したい。

設計専門家の役割は深く、広く