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連載|ものづくりの視点

変わり始めた中国の街づくりに期待

岩井 光男

今回の北京オリンピックでは交通問題、食の安全、大気汚染そして少数民族問題など中国の抱える多くの問題がクローズアップされたが、国家の力、勢いで何とか乗り切ったように見える。東京オリンピック前後の日本を振り返ると、戦後の高度経済成長によって国民の所得は増え続け、車や家電など物質文化面の生活は豊かになり始めていた。しかし一方では工場の排気や排水による大気、河川、海洋汚染などの公害が蔓延し、農薬や食品添加物などによって食の安全までも脅かされるという有様であった。私たちは40年かけてそれらの問題を社会制度や技術で解決しながら現在に至る。この日本の歩いてきた道を中国は今、疾走している。さらに、人口13億人、日本の25倍という広大な国土を持つ中国は地球環境の荒廃を食い止める重要な鍵を握っている。

6月下旬、上海と寧波を訪れた。アメリカのサブプライムローン問題に端を発した世界経済の混乱と四川大地震の影響によって中国経済に対する不安が伝えられていたが、街には工事中の建物が多く見られ、相変わらず活気に満ちていた。上海では、森ビルの開発している高さ492mの上海環球金融中心(上海ヒルズ)が数ヶ月後の竣工を控え外観は完成に近く、浦東新区の景観のシンボルとして高さ467.9mの東方明珠電視塔(テレビ塔)と交代しつつあるようであった。ここ十数年で上海は都市開発が進み、急速な発展を遂げ、日本をはるかに上回る数の超高層ビルが市内に建てられていると言われる。ただ、その開発はバブル的経済を背景にした刹那的なもので、建物は目立つことを第一とした竜頭蛇尾的な外観デザインが横行し、雑多な落ち着きのない都市景観を呈していた。また、歴史的建造物の過半が失われたと聞く。その反省として、最近の開発では緑や水を生かした景観づくりとともに、歴史的な建造物を生かす開発が多くなってきた。今回の訪問でもその変化を実感した。

例えば、外灘(わいたん)と呼ばれるウォーターフロントの開発では伝統的な住宅「石庫門(せっこもん)」を建て直し魅力的な水辺空間を造り、レストランやギャラリーにして街の賑わいを演出している。外国のデザインを模倣したものや奇を衒ったものが少なくなり、街並みとの調和を考えたデザインが多くなり、街に落ち着きと歴史的な深みが出てきた。連綿と受け継がれてきた庶民文化を採り入れ、地域のアイデンティティを生かす工夫も見られた。それは寧波も同様であった。

近代日本の建築はヨーロッパやアメリカの建築デザインの模倣から始まったと言えるが、多くの先人の努力によって今では日本の伝統的な建築や日本人の思想、哲学に基づいたデザインと機能を創る時代になっている。中国には四千年の歴史を経た民族の知恵と多様な文化がある。それを街づくりにぜひ生かしてほしいと願う。そして、日本も先を進む隣人として手本となるように、環境技術をさらに発展させ、持続可能な街づくりの先端を着実に歩んでいかなければならないと思う。

変わり始めた中国の街づくりに期待

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