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連載|ものづくりの視点

鋼材を有効に使う

深澤 義和

30数年ぶりに製鉄所を見学した。よく知られるように、鉄は鉄鉱石を高温で溶かし、成分を調整し、熱いうちに鍛える、という過程を経てつくられる。製鉄所では、昔に比べ省エネ・省資源・環境対策が徹底され、品質を確保するため高度な制御技術が使われるようになったが、鉄をつくる本質は変わらない。オレンジ色に溶けた、熱く、重い鉄が動く様子、そこに働く人の様子は感動的である。

鉄鉱石から鋼材をつくることの力学的な意義は、引張り強度を付与することである。鉄鉱石をそのまま積み上げて形を作ると、圧縮にはある程度耐えられるが、引張りが加わると崩れてしまう。歴史的にも、引張りに弱い石や煉瓦しか使えなかった時代には積上げて壁を作り、大空間にはアーチやドームを利用してきた。しかし、より大規模な構造、緊張した構造は、引張りに耐える構造材を用いないと実現できない。さらに、日本のような地震国で耐震性を確保するためには、引張りに強い鋼材を利用することは必然となる。

このような付加価値のついた鋼材は、構造物の根幹をなし、数十年以上利用される。また、不要となればリサイクルもされる。つまり、単純に消費されてなくなるものではなく、そう意識すれば、工事費としての適正な鋼材価格は、製鉄側のコストと利用する側の知恵との関係となる。

今、鋼材価格は高騰している。現在の鋼材の価格水準は、単位重量あたりでいえばミネラルウォーター並みであり、一概に高いともいえない。しかし、建設という行為において、いい建築を速く、安くつくることは使命である。鋼材の意義を再確認し、尚一層、上手に利用することが必要である。では、上手に利用するためには具体的にどうすべきか。

第一に考えるのは、鋼材の使用量を少なくすることである。鋼材を用いない構造、ないしは、極力少なくする構造として、鉄筋コンクリート造が考えられる。しかし、鋼構造と鉄筋コンクリート造がそのまま互換できるかといえば疑問がある。建築に求められるさまざまな性能、空間の構成や内外装との関係などを総合的に検討し、合理的な建築物をつくらなければならない。鋼構造でも地下構造や基礎は鉄筋コンクリート構造の特質をさらに発揮させる余地があり、この部分での工夫が効果的であろう。

第二には、鋼材の性質を十分に利用することである。20年くらい前まで、建築で用いる鋼材は一般用か造船用の規格であった。もちろん、規格を決めるにあたって建築からの要望も反映されていたであろうが、建築特有の要求をすべて反映していたわけではなかった。その後、建築のニーズを反映して、多様な建築用の規格鋼材がつくられてきた。その規格は一般的な規格の上乗せであるから、できた鋼材は貴重である。その性質を十分に利用したい。一方で、構造体の中で特別な規格を必要としない部位には一般的な鋼材を使えばよい。要求される品質に見合う鋼材を適材適所に使うことで無駄な規格は淘汰され、需給の改善にもつながるであろう。

鋼材価格の上昇とともに納期の長期化も問題となっている。建築主、設計者は工期の長期化を防ごうと発注時期や施工計画を検討するなどのさまざまな努力をしている。貴重な鋼材を用いて社会資本の充実を図るために、供給側にも尚一層の努力を望みたい。

鋼材を有効に使う