LIBRARY

連載|ものづくりの視点

耐震設計の科学

深澤 義和

「設計」という行為は科学を応用する、しかし、科学がすべてではない。このことは誰でも理解している。しかし、「耐震設計」については、科学であると思っている人が多い。

確かに耐震設計では、弾性から塑性、破壊に至る力学や振動論という物理学、数学などの高度な科学を利用し、計算機を利用して膨大な計算を行っている。しかし、科学技術の利用は、ある構造物に地震、力が加わるとどうなるかという分析、解析に使われているのであり、設計という行為の本質である、「かたちを決めること」は科学だけではできない。安全性を確認しながら、機能、美観との調和、施工性、経済性の実現をはかり、かたちを決めることが耐震設計なのである。

耐震設計に直接関わっていない建築家、建築主そして社会は、地震の脅威から生命・身体・財産の安全を得るために耐震設計が科学的であることを期待している。科学であれば、正しいか間違っているかのどちらかである。だから、計算の方法や判定基準を制度化して、厳格に見張ることを求めるように進んでいく。

一方、耐震設計に直接関わる構造技術者も、科学的であろうとしている。子どもの頃から、理科系の勉強が好きで、それが得意な者が建築学科に進み、建築を学ぶ過程で構造を専攻していく。構造を専攻する中で学び、研究する中心は科学である。科学的な課題を究めることが構造を専攻するもののアイデンティティになる。構造設計、耐震設計という実務に携わるようになっても、そのアイデンティティを大事にするのは当然であるが、ややもするとそこに閉じこもってしまう。

耐震設計に関わる科学技術を究めることは大事である。近代文明は、科学を基として進展してきた。実際、構造物の耐震性向上の原動力は科学なのである。しかし、科学ではない部分まで科学であると決めつけると、思わぬ方向へ進む恐れもある。ここが、近代科学の発展に伴う、現代の悩みである。「疑似科学入門」(池内了著:岩波新書)では、占いから地震予知、地球環境問題まで、純粋科学とはいえない事柄に対し、科学を装う危険性を論じ、一人ひとりが自ら考えることが大切である、と説いている。

地震が来るかどうか、どういう地震か、地震が来たときに複雑な建築物がどのように揺れ、何が起きるか、そして、どうなれば良いのか、結局、どういう建築とするか。まだまだ分からないし、どうしたら良いかと悩むこともまだまだ残っている。それでも何とかしようとするのが耐震設計である。

耐震設計に直接関わる技術者は、一人ひとりが自ら考えるために、自分が設計する構造物の耐震性能のねらい、その分析、工夫した成果などを、その限界も含めて関係者に説明する必要がある。一方、建築家、建築主は納得するまで説明を受けることが大事である。耐震設計は、関係者みんなで進めることで発展する。

耐震設計の科学