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連載|ものづくりの視点

砂漠の街づくり

岩井 光男

1月の下旬、サウジアラビアのジェッダと開発中のキング・アブドッラー・エコノミック・シティ(以下、KAEC:King Abdullah Economic City)を訪れた。周知の通り湾岸協力会議(以下、GCC:Gulf Cooperation Council)を構成するサウジアラビアやアラブ首長国連邦、バーレーンなどアラビア半島の主要産油国では石油依存経済からの脱却を目指し、原油より付加価値の高い製品の生産を目的とした精油所や石油化学プラントなどのエネルギー集約産業の確立、貿易・サービス・観光といった産業の強化を進めてきた。特に、原油価格の高騰に伴うオイルマネー投資は1000mを超えるタワーの建設などを目玉にした「ドバイモデル」と言われる開発に結びついた。しかし、この度の世界金融危機でドバイのような街づくりでは不動産価値を長期的に維持できないことが明らかになった。今、GCCの国づくりは大きな岐路に立っている。

ジェッダは首都リヤドに次ぐ人口340万人の大都市である。紅海に臨む小さな漁村に端を発し、千年以上前からイスラム教徒のメッカ巡礼の中継地として、中東のみならずアフリカ、アジア、ヨーロッパからの巡礼者を受け入れてきたことで多様な民族と文化が交差する街となっている。今では世界各国の領事館や金融機関が設置されている経済都市でもある。KAECはジェッダの北西約100kmの紅海沿いに、総面積168Km2、居住人口200万人、就労人口100万人の規模を誇る総合経済特区として建設途上にあり、インフラが未整備なジェッダに替わる都市としても期待されている。

しかし、降雨量が少なく寒暖の激しい砂漠での開発は、国内消費エネルギーの拡大をもたらす。これによって石油輸出量が減り、世界のエネルギー資源の需給バランスが崩れる一方、石油収入減が持続的成長を危うくするリスクが出てくる。特に従来のエネルギー消費型の街づくりではリスクが増大する。産油国だからこそ、太陽の光や熱、風力などの自然エネルギーの活用や徹底した省エネルギーが必要となるのである。今回の訪問では、発電能力100メガワット以上の集光太陽発電プラントの建設や公共交通機関の整備、グリーンビルディング技術の積極的採用など多岐にわたる省エネルギー対策を見聞きした。街で見かける男性は白、女性は黒という伝統的な民族衣装は、「千夜一夜物語」の世界のようで保守的イメージがあるが、GCC各国は私たちが考えている以上に環境に前向きで、環境技術に高い関心を持っているのである。地球環境問題は人類共通の問題であると改めて実感した。

また、GCC各国ではオイルマネーの還流とともに国際化が進み、大規模開発によって伝統的な街並みが消えている。民族の伝統を重んじる国だけに、砂漠の国の歴史を感じられる街づくりを期待したい。KAECがジェッダの歴史を引継ぎ、民族と文化の交流場所となるとともに、将来にわたり持続可能な環境都市、真のオアシスを目指してほしいと心より願うのである。

砂漠の街づくり