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連載|ものづくりの視点

木造密集住宅地域における街づくり

岩井 光男

日本の高度経済成長期において、昭和39年(1964年)の東京オリンピック、昭和45年(1970)年の大阪万国博開催は新幹線や高速道路などの建設を伴って、日本の輝かしい未来を予測させた。また都市部への人口流入が進み、住宅難解消のため、大都市圏では大規模住宅団地があちこちで建設された。戦後生まれのいわゆる団塊の世代が社会に出始めた時期でもあり、街には若々しさが溢れていた。あれから約40年後の現在、少子高齢化時代を迎えて私たちは未来に多くの問題を抱えている。

その一つに都市における過疎化の問題がある。いままでは山間部や農村部だけの問題として認識されていたが、都市においても過疎化は進行している。総務省統計局の平成20年(2008年)住宅・土地統計調査報告によると、東京都の住宅総数は約678万戸、それに対する居住世帯のある住宅数は約594万世帯で、空き家は約75万戸に達し、空き家は増え続けている。また、東京都が2004年に発表した「防災都市づくり推進計画」によると東京都下には、木造住宅密集地域という、木造建物棟数率が70%以上で1970年(昭和45年)以前に建てられた老朽化した木造建物棟数率が30%以上もあるエリアが広範に存在している。住人の高齢化とともに右肩上がりの経済成長は今後期待できず、デフレ経済の中で建て替えやリフォームの意欲は低下している。老朽化した木造住宅と空き家、そして高齢者層に偏った住民構成は地域コミュニティーにとって大きな問題である。特に木造住宅密集地域では老々介護や高齢者の一人暮らしの増加とともに、住民相互のコミュニケーションを難しくしている。一方、核家族社会において、高齢者層の多くが持ち家住まいなのに比べ、世帯人数の多い若いファミリー層が借家住まいという状況がある。その専用住宅持ち家の平均床面積は120.9m2、借家はその半分以下の45.9m2となっており、社会的ニーズとは掛け離れている。これらの問題を解決するにはこの木造住宅密集地域を老若男女が共に住むことができる環境に再構築して行くことが有効ではないだろうか。

住宅の建て替えや高層化によって住宅を大量に供給するだけではなく、住み慣れた街の景観やコミュニティーを生かしながら既存住宅の「減築」や「除却」による住環境の改善によって誰もが快適に生活できる街づくりは可能である。老朽化した住宅を「減築」によって耐震性を強化し、バリアフリー化など質の高い住宅に改修して長寿命化する。また、不良住宅を「除却」して空き地を緑化すれば木造住宅密集地域の密度を低くし防災にも役立つと考えられる。一昔前の町内での近所付き合いは心の通う暖かいものであったと記憶している。空き地を利用し、昔の風情を残しながら街の再構築を行うことによって故郷を失いつつある現代人の心に潤いを与えるものになるであろうし、街のバリアフリー化、防災力の向上がなされ、高齢者にも安心して住める街に変えることができる。さらに、空き家を賃貸住宅として整備し、若い人のこれからのライフステージに合った住み替えが可能になる街の構造に造りかえれば、多様な世代が混在するコミュニティーに改善される。

スクラップ・アンド・ビルドが繰り返されてきた日本の住宅の耐用年数は大変短いものである。平成20年度国土交通省白書によると日本の住宅の耐用年数は30年程度で、米国55年、英国77年に比べて大変短いことが解る。日本人の平均寿命約80歳とすると日本人は一生に2回以上家を建て替えなくてはならなくなる。そのような経済的余裕のある人たちが多くいるはずもなく、また資源の無駄である。それよりも100年~200年住み継がれるような住宅で有意義な人生を送った方が良いのではないだろうか。日本の中古住宅市場はまだ建物の価値よりも土地のキャピタルゲインを期待するような傾向がある。それを覆すには既存住宅を高品質な賃貸住宅に変えていくことが有効である。少子高齢化は悪いことばかりではない。老若男女が連携を取りながら街の構造改革を行えば、心の通い合うコミュニティーの復活も夢ではない。

木造密集住宅地域における街づくり