LIBRARY

連載|ものづくりの視点

耐震設計の力を海外へ

深澤 義和

国内の建設事業の減少に伴い、業界の目は海外に向けざるをえないところがあるだろう。しかし、日本の優れた建設技術を、それを求める海外に展開するチャンスととらえれば、がんばりがいもある。

日本の優れた建設技術のなかに耐震技術がある。何が優れているかといえば、あるべき耐震性を総合的に実現しようとして知恵を絞って、建設するところにある。地域ごとに過去の地震を調べ、地盤の性状を調べて発生する地震の強さを定め対応してきた。現在では、建築基準法でオーソライズされて、震度6強以上の最大級の地震に対して致命的な被害がないこと、震度5程度の発生の可能性が高い地震に対しては被害を極力なくそうとしている。過去の地震経験を未来に演繹するという方法であるから、地域によって、想定する地震の強さが異なることになる。日本は地震国であると言っても、大きな地震が起きてこなかった地域もあるので、そこでは、地震力を考えなくても良いことになるのであるが、それでも最低限として、標準の70%以上の地震の強さに耐えられることが要求されている。このように、地震対策が日本の建設技術の根底にあり、流儀となっている。

海外ではどうであろうか。地震はないという国、地域がある。しかし、ほんとうにないのであろうか。また、耐震基準がきめられている国は多いようであるが、その基準にはどういう智恵が使われているのであろうか。

そんなことを考えると、日本人が海外で構造設計する場合には、地震がないと言われている地域でも、日本での最低限の地震対策を行うべきではないだろうか。これは同時に、施工中の安全性や構造の健全性を確保することにもつながる。その地域で伝統的に培われた構造の仕組みが、必要最低限の耐震性を暗黙のうちに備えている可能性もある。それに対して、地震がないと言われている、法律を満足しているという理由で、日本の流儀を無視すれば日本がつくった建築が、結果的に弱いとなるおそれもある。

明らかに地震対策を必要としている地域での建設の場合、日本の耐震技術が優れているからといって、単純に強度を確保する伝統的な耐震技術を採用するよりも別の方法を考えた方がいいかもしれない。日本は、耐震技術が進んでいる反面、過去の経過にとらわれている面もある。現在、日本で進められている免震や制震、あるいは最近開発された新鋼材を用いた震度7弾性構造システムなどの新しい仕組みの方が理解してもらいやすいかもしれない。

さて、もう一つの日本の建設技術の優れた点は、実際に耐震性を実現する施工の精度や質にある。四川大地震やハイチの被害建物を見てわかるように、外国ではコンクリートが玉石だらけであったり、鉄筋が入っていない、あるいはしっかり配筋されていなかったりする。そういう欠陥があれば、実体としての構造の健全性は確保できない。日本では、設計、施工全般に強度を確保するベースが浸透して、その上で耐震設計が進んでいるのである。

日本の建設技術は優れている。それは、机上の分析や法規を守ることだけではなく、実体を健全にし、その構造物の存在意義を高めるために智恵を使い、つくりあげるところにある。そこを自覚し、自信を持って海外へ進出しよう。

耐震設計の力を海外へ