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連載|ものづくりの視点

リニューアルは尊い仕事

深澤 義和

アフリカのある国では、大きな瓢箪を半分に割って、ものを入れる容器として利用している。その大事な瓢箪製の道具が割れたり、欠けたりしたのを直す人がいて、わずかな報酬できれいに修復する。そういう専門家は、神の祝福を受けて長生きすると言われているようである。ものを直す喜びをたいがいの人は子供の時から知っている。しかし、結局うまくいかなくて壊してしまったという失敗を多くの方が経験しているであろう。私もその一人だが、それがあってか、上手に直してもらったときの喜びは大きく、直す人に対する尊敬の念が生まれる。

建築に携わる人がよく意識するほかのプロフェッションとして、医師と弁護士がある。医師は、傷つき弱った人間を治し、弁護士は絡み合った人間関係をほぐす。そんな言い方は失礼かも知れないが、修復するという尊いプロフェッションであるともいえる。さて、建築においても新築に対し、既存の建築を直すリニューアルが盛んになろうとしているが、これも尊い仕事である。

建築のリニューアルは、大きく分ければ、内装・外装のリニューアル、設備のリニューアル、耐震補強ということになる。内装・外装のリニューアルは、劣化した仕上げを新しくすると同時に、建物の使い方に合った模様替えを行うものであり、ニーズに直接対応して答えが明らかであるから、喜ばれる結果となる。設備のリニューアルも、痛んだり、快適でない設備の更新を図るものであり、新しい機能や効率の良い機器の導入は、快適性の向上などリニューアルの効果がすぐわかり、また、ランニングコスト低減の結果、数年でもとが取れてしまう。

問題は耐震補強である。耐震補強は、既存の建築の耐震性能を診断し、現在の進んだ技術で補修するのであるが、結果的には、新たな壁が付け加えられたり、柱が太くなったりする。そのため、建物の使い勝手に不満を残すことにもなりかねない。そういうことが予見できる上に、工事中の建物使用制限による不都合、何よりも費用の問題があり、簡単には手が着けられない。そこには、地震が来るのか、ほんとうに補強しなければならないのか、という疑問に対して誰も簡単に答えられないという耐震設計の根本問題が潜んでいる。

しかし、たとえ地震が来ることが明らかでなくても、それに備えて直すことは、医学でいえば予防であり、法曹界においては事前相談のような、問題の発生を防ぐ尊い行為である。困難も予見される中で耐震補強を進めるのであるから、それを決断する建築主が祝福されるのは当然であるが、それに関わる設計者や施工者も尊いプロフェッションである。

耐震補強の難しさだけでなく、既存不適格など新築とは異なる困難も多々あるが、長年使用され、親しまれてきた建築のリニューアルである。技術者は、建築主の想いを具現化するために、安く、確実で、建物の使われ方に障害の少ない工法を工夫し、必ず喜ばれる仕事をしていかなければならない。

リニューアルは尊い仕事