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連載|ものづくりの視点

行幸通り-東京駅前に広がる貴重なビスタ

大内 政男

丸の内にこの春、新しい魅力的なスペースが誕生した。もっとも、再整備され魅力的なスペースに生まれ変わったと言う方が正確である。とはいえ、マスコミなどに大々的に紹介されたわけでも、人々がここを目指して訪れるというわけでもない。2010年4月12日、あいにくの小雨日和で、会場を地下広場に移してオープニングセレモニーが行われた。このスペースの正式名称は「東京都道404号皇居前東京停車場線」。「行幸通り」の通称で知られ、皇居前の和田蔵門交差点から内堀通り、日比谷通りを横切り東京駅丸の内中央口前の広場に通じる街路である。この行幸通りは、関東大震災の震災復興事業の一環として整備され、4列の銀杏並木を持つ皇居から東京駅へ通じる通りとして、大正15年に完成している。今回、東京駅前広場から日比谷通りまでの延長190メートルの間が東京都の事業により再整備された。幅員73メートル、30メートルある中央帯は歩行者に開放され、「行幸」の名のとおり、皇室の公式行事には馬車道として使用される。この中央帯の両側には、地下駐車場整備のため一時は撤去されていた銀杏が植栽され、歩道側の銀杏並木とあわせて4列の銀杏並木が復活した。皇居と東京駅を正面に見るパースペクティブを持つこの街路は、その歴史的な意味も含めて都の景観重要道路にも指定されている。

このスペースのデザインの魅力は、街路であるという性質上当然であるが「何もない」ところにある。とはいえ、このデザインプロセスには土木や建築の専門家ばかりでなく都市計画、工業デザイン、造園の専門家など各方面の識者が参画している。中央帯は落ち着いた色調の御影石で帯状に舗装され、その両側にはベンチと一体となった御影石の笠木を持った低い立ち上がりの植栽帯、クラシックなテイストの照明灯、地下通路へのガラスボックスの階段室・エレベーター室、そして銀杏の木だけで構成されている。このミニマルなデザインは実に見事である。

この通りに直行する「丸の内仲通り」は幅員21メートル、整備がほぼ完了した行幸通りより南側(有楽町方面)は斑岩の舗装、数種の街路樹、ストリートファーニチャーや彫刻、デザインされた街路灯、そして何より通りに面してブランドショップやレストランなどが連なり、お洒落でとても濃密な空間を構成している。

この対比が実に見事である。有楽町側からこの仲通りの濃密な空間を楽しみながら行幸通りに出るとその瞬間、目の前にビスタが広がり、さらに中央帯にまで歩を進めると皇居へ繋がる歴史的な眺めと東京都心の意外なほど大きい空、また、東京駅はまだ工事中であるが、完成した時のその眺めの素晴らしさも容易に想像することができる。

仲通りは、現在進行中の丸の内1丁目、大手町地区のプロジェクトの完成とともに、今後、神田川方面まで賑わいを持った快適な歩行者空間として整備されていく予定であり、これからも時代の流れの中でその姿を変えて行く。同様に行幸通り周辺のビルもまた時代の変遷の中でその姿を変えていくことになるだろう。そういう中にあってこの行幸通りが、100年先も皇居と東京駅を正面に見る歴史的なパースペクティブを持つ街路として、都心にあっても東京駅上空と皇居に繋がるその空の大きさを体感できる貴重な空きスペースとして変わらずにあり続けるであろうということは、丸の内にとどまらず、東京という都市にとって非常に大事で素晴らしいことだと考える。是非一度この行幸通りの中央帯に立ち、ミニマルなデザインの素晴らしさと東京の歴史的なパースペクティブ、そして東京の空の大きさを実感してみて欲しい。特に夕暮れ時が筆者のお勧めである。

行幸通り-東京駅前に広がる貴重なビスタ