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連載|ものづくりの視点

我が街・大阪

豊泉 正雄

大阪に赴任して、早いもので、2年の月日が積み重なろうとしている。国内では東京にしか住んだことがなかった私にとって、大阪の街の治安や佇まいについてのあまり芳しくない情報に、不安を抱きながら始まった私の大阪生活であったが、その不安は大阪の“人を楽しませる心”と“居心地の良さ”によって、瞬く間にすっかり解消されてしまった。

今年の初春からは一念発起し、カーボンニュートラルと健康増進を兼ねて、天気の良い日には自転車通勤を心がけている。コースは、現在住まいとしている福島の“ほたるまち”を起点に勤務場所のある天満橋の“大阪アメニティパーク”まで、堂島川・土佐堀川に沿った中之島中心部の緑道を西から東に走り抜け、天満橋から大川沿いの桜並木を北上する延長5km程度の“水都大阪”を満喫できる親水緑道空間である。この経路の始点と終点の街づくりに、また大阪中心部のスカイラインを形成するプロジェクトに、私たち設計組織が参画させていただいている喜びを全身に感じながらのライディングは快適そのものである。

始めた頃の気温は低く、自転車通勤はかなりの防寒対策を必要としたが、それでも地下鉄やバス通勤に比べ、格段に爽やかな風を感じながら一日の始まりを過ごすことができる。そして季節がめぐり、見事なまでの桜の連続空間や、萌えるような新緑の生命力、中之島バラ園に絢爛豪華に咲き誇るさまざまな品種バラの姿、真夏を謳歌する蝉の鳴き声、また七夕や天神祭りのイベントなど、この自転車通勤はそれぞれの季節の記憶を刻みながら、時に心を和ませ、弾ませ、都市においても十分に季節の移ろいを感じさせてくれる。これから訪れるそれぞれの季節が描き出す情景がまた楽しみである。

天気の良い日には少し足を伸ばし、大阪城公園一周をすれば、秀吉の権力の威容を留める大阪城を堪能することができ、または毛馬排水場辺りまで少し足を伸ばせば総延長7kmの桜の通り抜けを楽しみながら、淀川の流れを臨むこともできる。大阪が世界に誇る親水都市空間のシークエンスの多様さを満喫できるのである。

セーヌとパリ、テムズとロンドン、ウィラメットとポートランドそして水都大阪。親水空間の魅力を誇る世界の都市は枚挙に暇がない。それぞれの都市がそれぞれの歴史や地理的条件、ポテンシャル、アイデンティティを主張して空間や景観の魅力の源泉である水・緑・歴史・建築・アートの組み合わせを競っている。水都大阪も、府、市、安藤忠雄氏を始め多くの方々の絶え間ない努力が実り、そのポテンシャルに日々磨きがかかっていくのを肌身に感じる。今後、大阪が最も大阪らしく明日の世界に輝いていくために必要なことは、やはり阪神タイガーズを愛するが如くに、この街に絶え間なく愛情と情熱を注ぎ込む人々の存在であろう。

私の通勤経路もまた、多くの方々の知恵と情熱により、絶えず新たな工夫や施設が生み出され、日々進化し続けている。この2ヶ月ほどの間にも岡田信一郎・辰野金吾設計の中之島公会堂の全景が眺められる広場にオープンカフェが、またバラ園に面してビアガーデンが、そして新たな親水緑道が市役所の南側のオープンスペースと一体的に整備され、利用者を楽しませている。

大阪の持つ魅力、ポテンシャルにさらに磨きをかけ、日本中に、そして世界中に水都大阪の魅力を知っていただけるよう、私たちも微力ながら街づくりを通し、この街を想い、愛情と情熱を注ぎ込む日々をしっかりと積み重ねてゆきたい。みなさん、是非一度、“水都大阪”を自転車で!

我が街・大阪