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連載|ものづくりの視点

新しい構造を支える基礎技術開発

岩井 光男

羽田空港のD滑走路が竣工し、供用が開始された。このD滑走路は、多摩川の河口に位置する全体の1/3ほどをジャケット構造方式という世界初の技術でつくられている。この構造方式は、鋼管で構成された大きな構造体のユニットを海底に固定された鋼管杭に取り付けて、全体をつなげていくもので、多摩川の流れを妨げないように、柱だけで滑走路を宙に浮かせた構造となっている。海中という厳しい環境に対応するため、その素材には鋼材のさびによる劣化対策として、柱にステンレスを使用し、滑走路の下面をチタンで覆っている。竣工前、海上から見学する機会を得たが、列柱の光り輝く姿は荘厳であった。

海に飛行場をつくる方法として、埋め立て、桟橋方式、船のように浮かせる浮体方式が考えられる。今から30年ほど前、関西空港が計画された時には、浮体方式が初めて実現されるかと期待されたが、実際は、埋め立てによっている。一部ではあるが、今回、初めての埋め立てによらない空港が実現されたのである。

日本は島国であるから、臨海部から海に向けてさまざまな構造物を建設することが求められ、その課題を克服するために、さまざまな研究開発が古くからおこなわれてきた。筆者は今から40年ほど前に、建築学科の鋼構造の研究室にいたが、そこでも鋼管熔接継ぎ手の疲労試験が連日繰り返されていた。その実験は、海洋構造物では、軽く、剛性の高い大型鋼管構造が必要になると予測し、その構造物に負荷がくり返しかかった場合の安全性を確認するものであった。今回の滑走路にも鉄の弱点であるさびの発生を防ぐために、さまざまな技術開発の成果が利用されている。そのほか、海上に大型の構造物をつくるための施工技術なども開発されて、今回のD滑走路の竣工に至っているのである。

今までなされてきた、こうした将来に向けての基礎技術開発が、これからもうまく進められていくのだろうか。今までの研究開発は、企業や大学あるいは公的機関が担ってきた。企業は実需要を想定し、目的と成果が大まかな事業投資に結びつくとして研究を始める。しかし、研究開発は真理を究めるという理学的な面もあり、コントロールは難しくなっていく。そういうなかで、事業が縮小傾向にある重厚長大型の産業では、これから研究開発に投資しにくくなっていくであろう。また、大学も経営が重視され、長期的な研究開発に資金や労力が配分されなくなってきているようである。科学技術立国を目指す国が頼みであるが、財政に余裕はなく、効果が明らかでない研究には資金を出しにくくなっている。

そうした中で期待されるのは、財団、社団、NPOなどの法人である。開発に意欲を持っている人・機関に、資金を集め、分配することが、そうした法人の重要な役割となるのではないだろうか。現在、公益法人制度改革が進められているが、法人の研究開発助成を支援する活動については、その意義を十分尊重していただきたい。

さて、多摩川の流れを阻害しないようにジャケット構造方式を取り入れたD滑走路下の海中は、思いのほか明るく、東京湾の海中生物のよりどころとなるのではないかと期待される。せっかくの環境配慮をさらに高めるための調査研究を是非とも進めてほしい。

新しい構造を支える基礎技術開発