LIBRARY

連載|ものづくりの視点

CGが創る未来の都市像

大内 正男

近頃、話題になった2つの映画を見た。一つは、西暦2154年に人類が住み着いた衛星パンドラでの人とその星に住む人型種族の戦いを描いた「アバター」、もう一つは人の深層意識に忍び込み、それを盗み作り変えてしまうという奇異難解なストーリーの「インセプション」である。どちらも高度なコンピューターグラフィックス(以下、CG)を駆使し、見事なエンターテイメントとして見る者を未知の時空へと導いてくれた。特に「アバター」は3D映像での上映を行い、興行的にも大成功であったと聞く。筆者は残念ながら3Dでは鑑賞しなかったが、主人公が衛星パンドラの空を飛び回る映像は、2Dでさえも、まさに自分がその空間にいるかのように錯覚する程の出来栄えであった。「インセプション」は2D映像であるが、パリの市街がまくり上がるようなシーン、廃墟と化した都市の中を主人公たちがさまようシーンなど、その精緻なCG映像により、主人公たちと同一の空間をさまよう感覚を覚えた。筆者はかねてからこのようなCG技術、そのCGが作り出すバーチャルな空間、そしてこれらCGを駆使した映像で表現されるクリエーターの未来の都市・建築に対するイメージに大いなる関心を持っている。

昨今のCGの発展には目を見張るものがある。CGを駆使した映画やゲームはその映像を通してクリエーターが思い描く未来の都市や建築、人々の生活に対するイメージを披露する。クリエーターは、バーチャルな世界で我々と同様に、それがたとえ廃墟のようなものであろうと、都市を計画し建築を設計することで、時空間を描き出し人々の現在、過去、未来の生活を表現する。ストーリーに関係なく、これら精緻な映像は我々のイマジネーションを大いに刺激し、大画面のCG映像は見る者をその時空間に引き込んでいく。文字による表現以上に、人々のイマジネーションに直接的に働きかけるCG映像の持つメッセージ性は非常に強い。

実世界の建築設計を生業とする我々ももちろん、CGを都市や建築を設計していく上でなくてはならないツールとして多いに活用している。我々が作るCGは、当然のこととして実世界の都市や建築を前提としており、地球の重力に抗い長い間実世界に存在し、時間的に連続した人々の生活空間を提示する。映画やゲームのクリエーターが作るCGとの違いは、重力や時間の制約から解放された自由な世界があるかないかということではないだろうか。そういう意味では、彼らにより自由な発想が期待され、要求されていると考えても良いだろう。とはいえ、彼らも重力と時間を十分に意識し、実世界とつながるものとして未来の都市や建築を表現している。だからこそ我々の持つイメージと重なり合って、我々に大いに刺激を与えることになる。

以前、大手電気メーカーの都市・建築設計者向け3次元CGのデモを見る機会を得た。半球形の画面の内側中心に立ち、3Dメガネを通してその画面に映し出されるCGを見る。音や匂い、振動などはないが、右を向けば右側の建物が見え、前に進む指示を出せば、前進することができ、遠くの建物が近づいてくる。あたかも自分がその街を歩いている、その建物の中を歩いているように感じる空間がそこにある。もちろん、街も建物も自由に作り変えることができる。この3次元CGはまだまだ我々に現実の世界と錯覚させるまでには洗練されていなかったが、現在のテクノロジーの発展スピードからすればすぐにでも、実際にその世界にいると錯覚させるほどの3次元CG映像が実現するはずだ。そして、この3次元CGの世界を操る都市計画家や建築家が、CGならではのより自由な発想で魅力的な未来の都市や建築、人々の生活を提示していくかもしれない。

筆者は3次元CG技術の発展とともにこれを表現手段として未来の都市、建築、生活に対するイメージをより自由に発想できる者が我々の中にも現れ、活躍するのを大いに期待している。

CGが創る未来の都市像