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連載|ものづくりの視点

地震に立ち向かう方策

深澤 義和

科学的に耐震設計を進めるためには、対象とする地震動を想定しなければならない。そのために、まず地震の歴史を調べ、そこに含まれている規則性をみつけ、過去が繰り返されるという前提のもとに地震動を想定してきた。さらに、地震が起きるメカニズムを仮定し、震源の破壊過程、伝播経路も仮定して、地震動を究めようとしてきた。しかし、現実の地震動は、それらを超えて発生する。

同じように、科学的に耐震設計を進めるためには、想定した地震動が加わるとどうなるかという解析をおこなって、それが目標を満足するか検証する。しかし、何から何まで解析できない。そして、解析できないところに被害が発生する。実際の地震によって何が起きたのか、何が起きなかったのかを謙虚に受けとめ、地震動との因果関係を整理しながら、事実を重視して、経験工学としての耐震設計を前に進めなければならない。

東北地方太平洋沖地震で、東京都心部は最大震度5強に見まわれた。震度5強というのは、阪神淡路大震災の後、それまでの震度5が5弱と5強に分かれたものである。1964年の新潟地震における新潟市、1976年の宮城県沖地震における仙台市などが震度5であり、それらに匹敵する地震動が東京都心部におきたことになる。筆者は9階建てビルの8階で体験したが、紛れもなく震度5強の揺れに驚異を感じた。東京が大地震に見舞われたのは、今から88年前、1923年の関東大地震であるが、それ以来初めて遭遇した震度5強の大地震である。建物に被害を与える周期成分が弱い地震である、というようなことはあるかも知れないが、東京の大地震の基準として位置づけられるものであろう。

その点から、東京での耐震設計の課題との関わりを見れば、まず、ひとつは長周期地震動の問題があげられる。今回、東京都心の超高層が経験した揺れが、まさしくこれまで指摘され、恐れられてきた長周期地震動なのである。もちろん、震源の破壊過程いかんで、長周期地震動の強さは変わるであろうが、とにかく、実際に起きたという意味で、東京の長周期地震動の基準となろう。同じように、東海、東南海、南海地震という巨大地震での東京都心部の揺れも、震源と東京の関係を考えれば、今回の揺れと同様なレベルとなるのではないか。そして、もう一つの問題としては、心配される東京直下型地震では、今回の揺れにさらに局地的に震度6弱、6強の揺れが加わる、ということである。

今回の地震では、宮城県北部で最大震度7を観測し、岩手から茨城までの広い地域で震度6弱、震度6強という地震動となった。筆者も地震直後に被災地に向かい支援活動をしてきたが、津波の被害を受けなかった地域では、倒壊を防ぐという建築基準法が求めるレベルからいえば、構造の被害は少ないようにみられる。しかし、実際に被害を受けた苦しさ、救援する困難さは大きい。それは、内装、外装、設備の被害が大きく、交通を含むインフラの被害が大きいことによる。震度6弱、6強の地震動を受けたときに、これらの被害を防ぐためにどうすればよいかという具体的な方策は必ずしも確立されていない。今回の被害から、どうなっていれば防げるのかを是非とも明らかにしなければならない。

津波については、流れてくる状況、被災地の状況を見るたびに声も出ない。とにかくこれが事実である。それを忘れないように対策を立てるしかない。

今回の巨大な地震による被害を受け止め、事実として起きたことに基づいて、地震に立ち向かう方策を具体的にしていかなければならない。今もって、被災者の救済に全力を傾けなければならない状況であるが、地震国日本の発展に必要不可欠なこととして、取り組んでいかなければならない。

地震に立ち向かう方策