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連載|ものづくりの視点

環境配慮社会への新たな転換点

東條 隆郎

早いもので、3月11日に起きた東日本大震災から半年が過ぎた。8月26日には「再生可能エネルギー特別措置法案」が国会で可決、成立した。エネルギー資源の乏しい我が国が、この大災害を契機としてエネルギーに対する考え方を大きく変えようとしている。日本の電力の電源別構成比は、2008年度で、石炭26.8%・石油13%・天然ガス26.3%・原子力24%・水力7.1%・その他2.8%(「原子力・エネルギー」図面集2011主要国の電源別発電電力量の構成比より)であり、再生可能エネルギー(自然エネルギー)の割合は10%に満たない。国が今後3年間で取り組むとしている、「需要構造改革」、「供給構造の多様化」、「電力システムの改革」、「再稼働を含めた原子力安全対策の加速」のうち、「供給構造の多様化」は正にこの再生可能エネルギーを増やすことに他ならない。

とはいえ、電源の立地する場所には多くの規制や課題がある。イギリスやドイツなどでは洋上の風力発電に力を入れているが、豊かな漁場の広がる日本の海域においては漁業権との関連で課題がある。また、陸上の適地の多くは山間部や海岸沿いにあるため、山林開発や道路整備などが必要となる一方で、バードストライクなどの鳥類への影響、また人家が近ければ騒音も問題となる。河川を利用する小規模発電では、当然河川法などの法規制をクリアするとともに、自然環境保護も考慮しなければならない。優れた自然環境は同時に優れた景勝地でもあり、そういった景観保全も含め、電源によりさまざまな課題が山積している。しかしながら、自然エネルギーを主要なエネルギー源の一つとして選択することは、この国、そして地球がサスティナブルであるために当然、取り組まなければならないことであり、正しい選択であると言えよう。多くの課題に対し国民全体の合意形成は欠かせないが、特に、小規模発電はエネルギーの地産地消を図ることの可能性や、リスク分散という点でも検討する価値がありそうだ。

昨年メキシコのカンクンで開かれたCOP16(国連気候変動枠組条約第16回締約国会議)は、完全な合意には至らなかったものの、全世界が温室効果ガス排出削減に向けた取り組みを行う意思を明確にした会議であった。次の世代にこの美しい地球環境を残すのは、今を生きる我々の責務である。CO2排出削減に向け更なる取り組みを進めることは、国が取り組む「需要構造改革」と一致する。現在、全国的に「節電」の取り組みがなされ、一般家庭や企業で15%から30%の削減努力が続いている。これが一時的な「節電」ではなく、「我慢」ではない「エネルギーを効率的に使う」という概念として定着できれば、とても大きなCO2排出削減になることが期待される。「再生可能エネルギー特別措置法案」の成立によって電気料金が上がり、その負担は国民等しく負うと言われているが、エネルギーの効率利用が定着すれば、家庭の負担は震災前と同程度に近づくのではなかろうか。

このように、社会がエネルギー問題について大きく変化しつつある状況において、我々建築設計に携わる者としては、エネルギーの効率利用の提案がますます重要性を増すだろう。単に省エネルギー、環境配慮設計だけではなく、その使い方も含め提案することが必須である。例えば、今、各企業ではオフィスの「節電」対策として「LEDタスク照明」を採用し始めている。アンビエント照明である天井照明の照度を減らすことと相まって、その効果はとても大きい。ただし、オフィスの執務環境の快適さを両立させる提案であることは当然である。また、新築、改修を問わず稼働する設備機器の最適な運転方法に対する提案もその効果は大きい。 環境に優しい建築・都市づくりに向けて、我々も今、転換期にいる。何十年、何百年後の未来のために、大きなこと小さなことに係わらず多様な枠組みで、取り組むべきことが数多くある。

環境配慮社会への新たな転換点