LIBRARY

連載|ものづくりの視点

震度7に備える

深澤 義和

首都直下型の大地震、南海トラフ沿いの巨大地震が発生すると、広い地域が震度7になると発表された。震度7となると建物はどうなるのか。

気象庁の震度階は、震度0から7までの10段階に設定されている(震度5,6のそれぞれが弱、強にわかれている)。阪神淡路大震災前は、震度の判定は気象台職員が、体感や物・建物の被害状況から判断していた。最大の地震動である震度7は、家屋の倒壊が30%以上におよび、山崩れ・地割れ・断層などを生じることとされていたので、地震後、被害状況を調査した後でしか判定されず、実際に、阪神淡路大震災の時は、数日後に被害の多い地域が震度7と認定された。1996年以降、地震計に計算機を組み込むことによって、ゆれの測定値からダイレクトに震度を決めるシステムに改良された。その結果、ゆれが震度6強の限界を超えれば震度7と即時に判定されるようになった。このときの改訂で震度5、6は弱、強に分けられたのであるが、震度7が最大であることには変わりなく、理屈としては無限大のゆれまでが含まれることになる。

建築基準法で定める耐震安全性のレベルは、「稀におきる地震」に対して無被害、「極めて稀におきる地震」に対して崩壊・倒壊を防止することになっている。稀におきる地震は震度5弱程度、極めて稀におきる地震は震度6強程度と解釈される。

当然であるが、震度6強で安全な建物が、それを超えたら崩壊するというものではない。現在、大地震に対する耐震設計でとられている弾塑性設計法には、想定する地震動を超えた地震動に対しても、安全性の余地があると考えられている。それは、構造体の一部が損傷を受けることによって、地震エネルギーを吸収するのであるが、その吸収力は効果的であり、変形が進むことによってより大きなエネルギーを吸収する。したがって、そういう効果を発揮する部位のディテールを入念につくれば、相当な強さの地震まで耐えられる。あるいはまた、法規では規定されていないが、地下のある建物、形やバランスのよい建物の安全に対する優位性は大きい。わかりやすいように、大地震に相当する地震力を1.2倍や1.5倍して安全性を高くする方法、あるいは、変形を小さく制限して余裕を大きくする方法などによって、安全性を高めることもおこなわれている。超高層や免震構造などで採用されている、建物の基盤に地震動を入力して振動解析する方法の場合は、震度7の領域に相当する地震動を最初から想定している。

これらのことから、震度7の地震で斜面崩壊・山崩れなどの地盤変状が発生している場合に、建築物の被害を防ぐことは容易でないかもしれないが、地盤のゆれ方が震度6強程度を少し超えたとしても、慎重に、入念に設計された建築物は耐えられる、といってもいいのではないだろうか。

しかし、これは、倒壊というような致命的な被害のことを言っているのであって、震度7の地震動が近い将来予測されているのであれば、被害をもっと少なくすることを考えなければならない。建物は地震後、そこで生活でき、補修可能なこと、建物内外の人々の安全確保が課題である。そのためには、震度5強、6弱にも無被害とするように、稀におきる地震に対する性能を高めておくことが必要である。一般的には、稀におきる地震に対する設計でも、さまざまな理由によって余裕が含まれているが、その余裕を確実にしなければならない。そして、建物だけでなく、仕上げ、設備などを点検し、家具の耐震対策を確実にすることが必要である。

震度7に備える