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連載|ものづくりの視点

建築にかかわる信頼回復に向けて

東條 隆郎

昨年から今年にかけて、非建築士が偽造免許証により設計監理業務を行っていたという事実が発覚した。2005年に起きた姉歯建築士の構造計算偽装では、建築士あるいは建築に対する信用は著しく地に落ちてしまった。その影響は今でも相当尾を引いている。そのような状況において、またしてもである。一般の市民にとって、また、我々建築に携わる者にとり非常に不幸な出来事である。

建築士の資格とはどのようなものか。建築士法の第一条に「この法律は、建築物の設計、工事監理等を行う『技術者の資格』を定めて、その業務の適正をはかり、もつて建築物の質の向上に寄与させることを目的とする」第二条の二には「建築士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、建築物の質の向上に寄与するように、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」と書かれている。建築に対する信頼を取り戻すために、建築基準法及び建築士法の改正やその見直しが行われ、建築士事務所に所属する建築士の定期講習の徹底、重要事項説明の制度構築など様々な取り組みがなされてきた。これには膨大な時間とエネルギーが費やされてきたのである。

今回の事件は、非建築士と言う事で、法により処分するという次元の話ではない。建築士法においては、建築士に対し包括的な建築設計・監理に関する「業務独占」が認められており、これを悪用したものである。「建築資格」に対する信用・信頼という面において大きなダメージである。この不信感を払拭するため、我々建築に係わる者として今まで以上の取り組みが求められている。

国土交通省からは「偽造免許証の写しによる建築士のなりすまし防止及び所属建築士の定期講習受講の徹底について(技術的助言)」が出され、すべての建築士事務所に対し、所属建築士の免許証の原本確認と所属建築士に対して定期講習受講を促すこと、及び、無登録判明時の告発等、厳正な対応を講じる事を要請した。

現在、日本国内の建築士は全体で約100万人、その中で一級建築士は約30万人であり、さらにその中で、実際に「専ら設計・監理に携わる者」は約2割と言われている。

この様な状況の中で、社団法人日本建築士連合会では「専攻建築士制度」を、社団法人日本建築家協会では「登録建築家制度」の資格制度をそれぞれ立ち上げ、試行期間を経てその制度をオープン化し現在に至っている。この「建築資格制度」は両者ともに、消費者保護を含め公益性保護の観点から、個人の専門家としての知識と能力および倫理とを団体がそれぞれ証明し能力保証に係わる情報開示を目指したもの、つまり設計の専門家に安心して仕事を任せられるようにするための仕組みである。両者の資格の認定は実務経歴年数、専ら設計・監理に統括的な立場で従事した実務実績、継続研修(CPD)実績などにより、審査評議会において審査が行われ登録される。登録有効期間は3年、5年と違いはあるものの、その更新に当たっては継続研修(CPD単位履修証明)が義務づけられており、更新審査に合格しないと登録の更新が出来ない仕組みとなっている。また、登録された人はそれぞれの団体から情報が公開される。このように、この資格制度に登録された建築設計の専門家は日々研鑽を重ね、知識と能力および倫理とを持ち合わせていることが証明されるのである。しかしながら残念な事にこの資格制度はまだまだ社会に定着し認知されているとは言えない。

昨年(2011年)の秋にUIA(国際建築家連合)東京大会が開かれた。海外からも多くの建築家、建築技術者、学生の参加があったものの、一般の市民の参加は今ひとつであった。建築家や建築に携わる専門家について知ってもらう絶好の機会であったが、まだまだその存在・役割が知られていない、理解されていないと言うことを再認識したところである。

我々建築設計に携わる者として、今後、まちづくりや建築設計など様々な場を通じて、信頼できる建築設計の専門家である事が容易に確認できる仕組みとして、これら資格制度を地道に発信し定着させていく努力をしていかねばならないのは言うまでもない。

建築にかかわる信頼回復に向けて