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連載|古図面の旅

第15回 丸ノ内ビルヂング(大正12年)[桜井小太郎の様式美]

須藤 啓

戦前戦後を通じ、丸の内の建築で欠くことのできない建築といえば、この旧丸ノ内ビルヂング(以下、丸ビル。大正12年竣工)ではないだろうか。この丸ビルは、竣工直前に関東地震、さらに竣工後に関東大震災で被災し、昭和になってタイル貼りからモルタル塗りに外装が大きく変更された。外装は昭和10年にタイル張りに戻り(様式要素がなくなった)、昭和57 年にGRC 張りと変遷したが、これらの図面は最初の外壁のためのものである。三層構成を採用しつつも全体としてシンプルな印象の丸ビルだが、よく見ると随所に様式的なデザインが施されているのがわかる。その中でも、特徴のある中央エントランスと8階コーナーの詳細図を紹介したい。
中央エントランスは、2層吹き抜け3連アーチが特徴であるが、その図面名称は、「MARUNOUCHI BUILDING TOKYO, JAPAN DETAIL OF MAIN ENTRANCE」であり、平面、立面、室内側展開、矩計で構成されている。平面での柱型は中央に空洞がみられ、煉瓦積であることがわかる。さらに、矩計図の上部に“BRICK ARCH” との記載があり、つまり3連アーチは煉瓦が積まれて形成されていたことがわかるのである。
8階コーナーはR形状となっているが、その詳細図「MARUNOUCHI BUILDING TOKYO, JAPAN DETAIL OF ROUND CORNER OF 8TH FLOOR」には、コーナーR面に沿って飾られたコーニス、さらに窓を挟むようにドリス式オーダーが4本配置されているなど、様式的要素に、より強調されていることがわかる。なお、このオーダーは丸ごと一本“Cast Stone”、つまり擬石で造られていることがわかる。
施工を米国のフラー社が請け負ったためと推測されるが、図面表記として英語が使われていて、寸法もインチスケール(3/4”=1ʼ-0”) になっている。サインにいたってはK.S.(桜井小太郎)と徹底している。

  • 左:旧丸ノ内ビルヂング 中央エントランス詳細図/右:旧丸ノ内ビルヂング 8階コーナー詳細図

    左:旧丸ノ内ビルヂング 中央エントランス詳細図
    右:旧丸ノ内ビルヂング 8階コーナー詳細図

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